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藤城皐月物語 1  作者: 音彌
第2章 2学期と思春期の始まり
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78 思惑の交錯

 今時の小学生の間では流行らない麻雀(まーじゃん)が、悪ガキ四人の中に美少女一人がいて、知らないおばさんの部屋という特殊な状況下で始まった。

 五人いるから一人が見学に回り、1局ごとに振り込んだ者と交代する。8000点持ちで始まり、誰かの持ち点が倍になるかゼロになるかで勝負が決まる。

 最下位の者が罰ゲームでみんなの前で歌を歌う。トップを取った者が次のゲームの間、自分の好きな音楽をかけることができる。話し合って決めたこのルールをここにいるみんなは気に入っている。

 ジャンケンで抜け番を決め、1局目は藤城皐月(ふじしろさつき)が抜けることになった。入屋千智(いりやちさと)の後ろで闘牌(とうはい)を見守ることにした。

「おい、皐月。口出し禁止だからな」

「わかってるよ!」

 月花博紀(げっかひろき)は小学校の教室では決して人に対してこんな口のきき方をしない。特に女子の前では常に紳士のように振る舞っている。そんな温厚な雰囲気が博紀のビジュアルだけにとどまらない人気の要因の一つでもある。それと比べて皐月は素を丸出しにしているので、一部の女子にしか好感を得られていない。


 麻雀は博紀の親で始まった。各自手持ちのコインを卓の右端において皆に持ち点がわかるようにしておく。

「お前さ、学校で入屋さん同じクラスだよな。うまくやってるのか?」

「当たり前じゃん」

 皐月は博紀と直紀の会話に違和感を感じた。これは千智が目の前にいる今ここで話すべきことなのか? 皐月は自分の疑問を確かめるべく千智に小声で聞いてみた。

「うまくやれてたっけ?」

「そうでもないと思うんだけど……」

「席替えやった? 俺たちはやったぜ」

「まだやってない」

「お前らのクラス遅いな。今週中にはあるだろ」

「そうだね」

 博紀がこんなに饒舌になるのはやっぱり不自然だ。ペラペラ話していても会話に内容がない。皐月は月花兄弟のイカサマを疑った。彼らは符号を使って手の内を知らせ合うことがある。だが、まだ見破ったことがない。


「入屋さんと隣同士になれたらいいね」

 今泉俊介(いまいずみしゅんすけ)が会話に割り込んできて、心にもないことを言う。千智に口をきいてもらえない月花直紀(げっかなおき)を精神攻撃しているつもりだ。

「入屋に嫌がられるかもしれないから、別に席なんか離れててもいいよ」

 結局この局は博紀が500点オールで早和了(はやあがり)をして、持ち点は博紀9500点、直紀、俊介、千智は7500点、皐月は8000点になった。皐月はイカサマが行われたかどうかわからなかった。

 モニター代わりに使っていたテレビに点数表が表示された。皐月が点数を入力すると自動的に計算される。

「クソ〜っ、一発で決めてやろうと思ったのに……」

「俊介が和了(あが)ったら俺が歌わなきゃならなかったからな。ヤバかったわ〜」

 ツモ和了(あがり)の時は親の右隣が抜けることにしているので、直紀が見物に回り、交代で皐月が入った。直紀は俊介と皐月の手牌が見える位置に移動した。


 2局目も博紀が親を続けた。博紀は千智のおぼつかない手捌きを見て、麻雀の実力は大したことないと高を括っていたようだ。そんな千智が5順目にリーチをかけたので博紀は驚いた。直紀は手牌(てはい)を見たくて千智の背後に回った。

「すげーな、入屋。ちゃんと麻雀できるじゃん」

「ちょっと黙っててくれる? あと私の後ろに来ないで!」

「あ、ごめん」

 千智の直紀に対する当たりがキツかった。千智は過去の直紀のことをもう気にしていないと言っていたが、まだ直紀との確執を引きずっているのかもしれない。あるいは単に手牌を見られたくないだけなのか。

 博紀は千智と初対局なので実力が想像できない。自分から攻めようとも思ったが、手が悪くて聴牌(てんぱい)すらできない。

「こんなリーチ、何で待ってるかなんてわかんないや」

 皐月は振り込んでもいいつもりで牌を捨てられるが、博紀と俊介はビクビクしながら牌を切っていた。

「ツモ」

 千智が一索を優しく卓に置き、ゆっくりと丁寧に手牌を開いた。

「リーチ一発ツモ平和(ぴんふ)ドラ1、裏ドラは……乗った! 跳満(はねまん)っ!」

 裏ドラは表示牌と同じだった。

「お〜っ! 千智すげー! 安目なのに跳ねちゃった!」

「マジかよ、クッソ!」

 千智の得点は跳満の一本場で12300点。これで持ち点が千智19800点、直紀7500点、皐月4900点、俊介4400点、博紀3400点となった。千智がトップで博紀が最下位だ。博紀が歌を歌うことになった。


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