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藤城皐月物語 1  作者: 音彌
第2章 2学期と思春期の始まり
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72 不思議な子

 月映冴子(つくばえさえこ)は不思議な子だった。鈴木彩羽(すずきあやは)の暴走を止めた時は、入屋千智(いりや)は冴子も彩羽たち側の子なのかと思った。だが、その後の冴子の行動を見ていると、彩羽たちとつるんでいる様子が全く見られない。

 冴子は誰とも穏やかに接しているが、どこかのグループに属している感じでもない。ステファニーと英語で話をしている時もあり、ステファニーは冴子のことをいい子だと言う。

 キャンプの時、冴子はステファニーと千智と同じ班になった。千智は冴子とキャンプを通じて話せるようになったが、友達になれたといえるほど親しくはならなかった。千智はステファニー以外の全ての子を警戒していたので、冴子に心を開くことができなかった。

 冴子は千智だけでなく、誰と話していても感情を表に出さずに穏やかにしている。その姿が千智には冴子がクラスの子に心を開いているようには見えなかった。

 その点では冴子と千智は同類だが、冴子はどことなく大人が仕事で人に接しているような距離感を、クラスメイトとも取っているように見えた。相手に不快な思いをさせず、トラブルをあらかじめ避けるような処世術だ。


「月映さんって千智がうんこって言われた時、絶対笑ってなかったと思うな」

「どうしてそう思うの?」

「ん……なんとなく、かな」

 藤城皐月(ふじしろさつき)は千智の話しぶりだけで、冴子のことをいい子だと思うことにした。話を聞く限りでは、今まで皐月の関わったことのない魅力的な子のような感じがする。

「私もそう思ってる。でも月映さんのこと、まだよくわからないな……」

「そう?」

「うん。だってあの鈴木さんを従える迫力はどこからきたのかなって思うと、ちょっと考えちゃう。冷たい目で鈴木さんを見ながら、腕を掴んで黙らせちゃうんだよ。ちょっと怖いな……」

「でも、敵じゃないんだよね。キャンプで何日か一緒に過ごしたんだし、月映さんのことは感覚的になんとなくわかるよね?」

「うん……いい子だと思う。あの頃は私も心を閉ざしていたから、仲良くなれるきっかけが掴めなかったのかもしれない」

「月映さんと友達になれたらいいね」

「……そうだね」

 水泳以外は完全無欠に見える千智にも悩みがあったことは、話を聞くまで皐月には想像できないことだった。そんな話しにくいことを自分に話してもらえたことが嬉しかった。


「さて、これからどうしようか。喫茶店のパピヨンにでも行ってみる? でもまだ何も飲んだり食べたりする気にはなれないか……」

「暑いけど、また豊川稲荷(とよかわいなり)に行ってみようよ。それとも他にどこかお勧めのところってある?」

「そうだな……豊川進雄(とよかわすさのお)神社にでも行ってみるか。小さいけど古い神社でさ、俺たち栄町(さかえまち)の子ってお稲荷さんよりも進雄神社の方でよく遊んでるんだよ」

「進雄神社って行ったことがないし、そもそも聞いたことがない」

「そっか、千智の家と地区が違うからな。進雄神社って夏祭りの花火が結構有名でさ、手筒(てづつ)花火とか綱火(つなび)とか凄いんだよ。あと町内対抗の仕掛け花火もあるし」

「何それ? 全然知らなかった! 見てみたかったな〜、花火」

「毎年やってるから、来年見に行こうよ。動画ならネットに上がってるから、今から見てみる?」

「うん、見たい!」

「たぶん千智の想像している花火とは全然違うよ。火山やミサイルみたいですげ〜迫力があるんだ」

「う〜ん……なんか凄そうだね」


 少しでも大画面で見たいと思い、勉強机の前に座っていた千智に場所を代わってもらい、デスクの上のノートパソコンを起動させた。その時、窓の外から皐月を呼ぶ声が聞こえたような気がした。

「さ〜つきく〜ん!」

 やっぱり誰かの呼ぶ声が聞こえる。今までの皐月は外の通りに面した部屋にいたので、友達の呼ぶ声がよく聞こえた。しかし今ではそこは及川祐希(おいかわゆうき)の部屋になってしまい、皐月は奥の部屋にしかいられない。窓の外からは距離が遠くなるので声が届きにくくなっていた。

 祐希の部屋を抜け、開け放たれた窓の欄干から身を乗り出した。すると、そこには同じ班の喫茶パピヨンの息子の今泉俊介(いまいずみしゅんすけ)月花直紀(げっかなおき)、そして直紀の兄の博紀(ひろき)の三人が立っていた。


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