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藤城皐月物語 1  作者: 音彌
第2章 2学期と思春期の始まり
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59 女の子を初めて家に誘った

 藤城皐月(ふじしろさつき)が家に帰ると、母の小百合(さゆり)と住み込みの及川頼子(おいかわよりこ)が居間で談笑していた。音楽も映像も流さず、ただお喋りをしながら過ごしていたようだ。

「今日のお昼、素麺(そうめん)ね」

「え〜っ、また素麺かよ〜。最近、蕎麦(そば)と素麺ばっかりじゃん」

 今までは皐月と小百合の二人暮らしだったので、戴き物の乾麺がなかなか減らなかった。特に夏は素麺をたくさん貰っていたので、昼食は素麺になりがちだった。

「今日はちょっとアレンジした素麺にするから楽しみにしててね、皐月ちゃん」

 これからはあまり凝った料理を作らない小百合とは違う、賄いをしてくれる頼子がいる。

「アレンジってどんな?」

「お肉と野菜でボリュームたっぷりにしようかなって思ってるの。皐月ちゃん、野菜の好き嫌いってある?」

大蒜(にんにく)と生の玉葱(たまねぎ)が嫌い。特に生の玉葱は食べたら吐いちゃうかも……。苦手な野菜は他にもいろいろあるけれど、食べようと思えば食べられるから、大蒜と生の玉葱以外だったら何でも出していいよ」

 本当はまだ嫌いな野菜がたくさんある。(ねぎ)茗荷(みょうが)、セロリなどの香りの強い野菜が苦手だ。

「皐月、あんたそんなこと言って大丈夫なの?」

「いい機会だから、苦手な野菜でも食べられるようにしたいって思ってるんだ。だからママ、頼子さんに俺の苦手な野菜のこと教えないでよ」

「はいはい、わかりました。そういうことで頼子、食材は何でも遠慮なく使って、好きなように料理してくれていいからね。なんなら大蒜も生玉葱もこっそり入れちゃっていいから」

「いや、それはやめて! ……でも、食べられた方がいいのは確かだし、どうしよう……」

「皐月ちゃん、偉いね〜。大人の階段上ろうとしているのかな」

「色気づいているだけよ」

 頼子と一緒にいると、小百合も学校の女子とあまり変わらないなと思った。皐月は教室で女子から逃げるように、二階の自分の部屋へ上がって行った。


 皐月の部屋の窓と廊下側の窓が開け放たれていた。皐月と及川祐希(おいかわゆうき)の部屋を仕切っている襖も開いていたので、風がよく通っている。暑いことは暑いが、今日はそれほど蒸し暑さを感じない。昼食ができるまではエアコンを付けずに暑さを少し我慢することにした。

 皐月はランドセルからスマホを取り出し、入屋千智(いりやちさと)にメッセージを送った。千智から返信が来るまでは、栗林真理(くりばやしまり)から借りている『特進クラスの算数』をパラパラ眺めて時間を潰すことにした。

 中学受験をする真理や二橋絵梨花(にはしえりか)はこの参考書の問題のどのレベルまで解けるのだろうか。いくらあの二人でも全ての問題を解けるわけではないだろう。そうは思ってはみても、今日の算数の小テストでの二人の様子を見ていると、自分の馬鹿さ加減に嫌気がさしてくる。


 ベッドの上でメランコリックになっていると千智からの返信が来た。

 ――ただいま〜。先輩から『おかえり〜』って来ててビックリしちゃった

 ――今日、最後に会えたね。黒のワンピース、かっこよかったよ

 ――ありがとう。かっこつけて黒ずくめにしちゃったけど、暑かった〜

 ――そっか、暑かったか。さっきのスタイルの千智に会いたいなって思ったけど、ダメかな?

 ――ダメじゃないよ。全然


 学校では女子とよく話す皐月だが、プライベートで女の子をデートに誘うのは幼馴染の真理以外では初めてだった。

 このチャットで千智を誘うつもりはなかったが、話の流れでいけそうな感じがした。「会いたい」とさらっと書いてみたのが良かったのかもしれない。最初から誘うつもりでメッセージを送ろうと思ったら、躊躇していつまでも送れなかっただろう。


 ――通話に切り替えたいけど、いい?

 ――いいよ


 一旦チャットを終了し、通話に切り替えた。約束を取り付けた後だから気持ちにも余裕がある。


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