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藤城皐月物語 1  作者: 音彌
第2章 2学期と思春期の始まり
58/104

58 繊細な美少年

 藤城皐月(ふじしろさつき)は変に勘繰る癖がある。皐月はてっきり月花直紀(げっかなおき)入屋千智(いりやちさと)のことを好きだと思い込んでいた。

「そういや今日の入屋ってさ、なんかいつもと違って機嫌が良かったんだよね。いつもなら放課に帽子かぶって顔隠してるのに、今日は普通に顔出してたし」

「入屋さんのファッション、ワイルドだけど女の子っぽくて格好よかったな……。でも僕には高嶺の花に見えて、近寄り難かった」

「なんだ俊介、さっき体操服だって言ってたじゃんか」

 皐月は今泉俊介(いまいずみしゅんすけ)に嫌味を言いながら、もしかしたら直紀よりも俊介の方が千智に惚れているんじゃないかと思った。

「あのね、入屋さんってね、いつも男の子っぽい服着てるのに、今日は女の子っぽかったよ」

「へ〜、良く見てるんだね、祐奈ちゃん」

「そりゃ見てるよ。だって私、入屋さんのファンなんだもん。私もあんな風にカッコ良く着こなしてみたいなって思う」

 嬉しそうに話す山崎祐奈(やまざきゆうな)を見て、皐月は自分の知らないところで千智がこんなにも人気があることを知った。教室の階が離れているだけで、こうも常識が違うものなのかと思った。

 でも直紀の兄の月花博紀(げっかひろき)は下の階の下級生にも人気がある。博紀の場合は見た目だけでなく、運動会や球技大会で目立っていたからだろう。千智は恵まれたルックスに加えて、普段のファッションが目立っているからモテるのか。

「もうみんな揃ったし、そろそろ帰ろうか」

 一部の班はもう帰り始めている。博紀たちの班も全員集まったようなので、途中の豊川稲荷のスクランブル交差点まで一緒に帰ろうということになった。


 皐月に手を振った千智と、千智に付き添っていたステファニーは自分たちの班の場所に戻ってきた。

 ステファニーが千智に英語で話しかけた。こういう時はまわりに話を聞かれたくない時だ。


"Who is that boy you waved?"

"He is Satsuki. He means the world to me."

"Lovely!"


 普段はできるだけ日本語で話したいとステファニーは言うが、クラスの女子の雰囲気が悪いので、二人の秘密の会話は英語でしようと決めている。ただ千智の英語力がまだ英検3級程度しかないので、あまり込み入ったことが話せない。

「千智、素敵ナ言イ方スルネ」

「この言い方、最近覚えたの。英語の歌で覚えたんだよ」

「私モ歌デ日本語覚エタイ」

「それ、いいね。どんな歌がいいかな?」

「カワイイ女ノ子タチノ歌ガ好キ」

「アイドルの歌だね。また一緒に動画を見ようか。わからない言葉があったら私に聞いてね。わかる言葉だったら私が教えるけど、意味のわからない難しい言葉は二人で一緒に調べよう」

「デモ千智、2学期カラ塾ニ行クネ。ソレニ皐月トデートシタラ、私ト遊ブ時間、ナクナッチャウネ」

「そんなことないよっ! ステファニーと遊ぶ時間は大切だから。それにデートなんてしてもらえないかもしれないし……」

「大丈夫。千智ノ誘イヲ断ル男子ナンテ、イナイヨ。自信持ッテ」

「ありがとう、ステファニー」


 校門を出た皐月と博紀の班はすぐに左に曲がって狭い路地に入った。先生の目も届かなくなるし、車も通れない道なので早速列が乱れ始めた。珍しく博紀が皐月に近寄って来て話しかけた。

「なあ、俺ってあの子に嫌われてるのかな?」

 さっきの千智の態度の急変の話だ。

「お前、あの子と何かあったの?」

 博紀が千智のことを「あの子」と呼んだので、皐月も合わせた。たぶん直紀に聞かれた時にごまかせるようにしたのだろう。

「そんなのあるわけねーだろ。昨日初めて会ったんだし」

「そっか……じゃあ、気のせいなんじゃねーの? ていうか、なんでそんなこと聞くんだよ?」

 冷たい言い方だったかなと思ったが、皐月としては一応確認しておきたかった。

「俺が手を挙げたら急に顔色が変わった。お前も見てたよな」

「うん、あれはちょっと俺も何事かと思ったよ。むしろ俺に何か問題があったのかと思った」

 もちろん嘘だ。博紀が原因だと思ったから、あの時皐月は博紀の方を見た。ただ博紀が弱っていたので慰めてやりたくなっただけだ。


「後で聞いてみるよ。さっきどうして顔色が変わったのかって。俺も気になるし」

「やめろよ。そんなことされたら、みっともないじゃないか」

「そうなのか?」

「皐月はそういうとこ軽率なんだよ。思ったことをすぐに口にするから」

「疑問はすぐに解消した方が気が楽じゃん」

「結果が悪かったら、余計に気が重くなるだろう?」

「……そっか。そういう風に考えるのか、博紀は」

 博紀は女子からちやほやされるくせに、女子と話すのがあまり得意ではない。変に意識し過ぎているように感じていた。皐月は博紀よりも女子とのコミュ力に圧倒的な差があると優越感をいだいている。

「まあ気をつけて探りを入れてみるよ。やっぱ俺も気になるし。大丈夫、博紀に恥をかかせるようなことはしないから、安心しろって」

「そうか……じゃあ頼んだわ」

 ここにきて博紀の皐月に対する態度が明らかに変わった。皐月はずっと博紀に対して苦手意識を持っていたが、もう今までのような圧力を感じることはないだろうと感じ始めた。

 だがこれは精神的に優位に立ったというわけではない。欠点らしい欠点のない博紀に対して、皐月はいまだにコンプレックスを感じている。

 だがコンプレックスがあるのは博紀も同じだということがわかってきた。皐月はやっと博紀に親しみを感じられるようになった。


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