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藤城皐月物語 1  作者: 音彌
第2章 2学期と思春期の始まり
54/104

54 小テスト

 前島先生は席替えを無事終わらせた学級委員の月花博紀(げっかひろき)二橋絵梨花(にはしえりか)に労いの言葉をかけた。二人を席に着かせ、茶封筒から紙の束を取り出した。

「算数の小テストをします」

 前島先生は無駄なことをほとんど言わない。クラスのみんなも慣れたもので、文句を言う児童は誰もいない。

 六年生になったばかりの頃は、テストと言うと不満を言う児童が何人もいたが、授業のはじめに毎日テストをしているうちに嫌がる子はいなくなった。むしろ今ではみんな楽しみにしている。

 その秘密はテストの問題にある。

 全12問の120点満点。小一と小二レベルを各1問、小三から小六レベルを各2問で100点。ここまでは普通のテストだが、残りの2問は中学受験レベルのチャレンジ問題が出される。

 算数が苦手な児童でも0点はないし、算数が好きな児童は100点以上を狙える。先生は100点を取れれば十分だと言う。


 藤城皐月(ふじしろさつき)はいつも100点以上を狙っている。

 だが、このテストは制限時間が5分しかない。勉強の得意な皐月でも時間切れになってしまうことが多く、なかなか100点を超えられない。時間をかければ解ける問題がほとんどなので、悔しさもひとしおだ。

 クラスでは栗林真理(くりばやしまり)と二橋絵梨花だけがこの小テストでいつも120点を取っている。

 120点を取った生徒は先生がみんなの前で讃えるので、クラスの誰もが知ることとなる。皐月は110点までは取れることもあるが、120点に届いたことがない。いつかみんなの前で称賛される快感を味わってみたいと思っている。

(真理と二橋さんに囲まれちゃった……ヤバいな、この席)

 皐月はいつもよりも緊張しながらテストに臨んだ。

 1学期の時の席では100点を取れば隣の席の筒井美耶(つついみや)が尊敬の眼差しで皐月を見てくれた。その頃は120点が取れなくても十分気分が良かった。

 しかし今度の隣の席は絵梨花で、前の席は真理だ。120点に囲まれて100点じゃ恥ずかしい。120点を取って二人と対等でいたい。


「では始めてください」

 クラスの全員が一斉に問題に取り掛かった。タイムアタック的要素があるためか、みんな真剣だ。

 最初の方の問題は低学年の復習なので解くスピードが速く、手の動きや鉛筆の音に迫力がある。授業参観でこの光景を見た父兄からは評判が良いらしい。

 問題の中にドーナツの面積を求める問題があった。円の面積の差を求めるだけのことだが、分配法則を使って計算時間を短縮したい。

 3.14の計算は前島先生の方針で、九九でいうところの3.14の段の計算結果の一覧表を教室に貼り出してある。そのため、面倒な小数の掛け算をしなくても済む。

 中学に入ると円周率はπを使うので、小学校で面倒な小数の計算をするのは無意味だと先生は言う。真理は張り出された表よりも多くの計算結果を暗記しているので、一覧表を見て解くよりも計算が早い。

 皐月は100点までの問題は瞬殺で終わらせた。いよいよここからが面白いところだ。今度こそ120点を取ってやるぞと意気込んで問題を見た。一つは一見面倒な小数の計算問題で、これは小数を分数に変換して計算したらすぐにできた。最後の1問はこんな問題だった。


「ある整数で145を割ると余りは5で、380を割ると余りは2となった。このような整数を全て求めよ」


 残り時間が1分を切っている。パーフェクトは目の前だが、かえってそのことが焦りを生む。

(え〜っと、145と380を同じ数で割るってことか。どっちも余りが出るってことは両方から余りを引いた数なら同じ数で割り切れるってことだな。つまり……)

 少し時間がかかったが、皐月は方針が見えた。

(わかった。公約数だ。145-5=140、380-2=378。だから140と378の公約数を求めればいいんだ。最大公約数は……(計算中)……14だ!)

「はい、時間です」

 皐月は先生の言葉と同時に慌ててテスト用紙に14と書いた。

「採点します。隣の席の人と答案を交換してください」

 皐月は交換された絵梨花の答案用紙を見て愕然とした。最後の問題の解答欄に14と7が書かれていた。

(やっちまった……7もそうだった! 14の約数の7って、余りの5と2よりも大きいじゃん)


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