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藤城皐月物語 1  作者: 音彌
第2章 2学期と思春期の始まり
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48 受験勉強か先取りか

 藤城皐月(ふじしろ)は録画中のモーサテに番組を切り替え、追っかけ再生で見ながら勉強を始めることにした。部屋に戻って、栗林真理(くりばやしまり)から借りた『特進クラスの算数』という中学受験用の問題集を持ってきた。

 本の中を見ると、最初の方には学校でもやったような計算問題が載っていたが、ほとんどの問題は授業でやったことのないタイプのものだった。皐月は最初こそ知的好奇心をくすぐられたが、この分厚い問題集のほとんどが難しそうな問題だったので、手をつける前から嫌気がさしてきた。

 及川祐希(おいかわゆうき)が階段を下りてくる音が聞こえたので、ビデオを一時停止して問題集を閉じた。祐希がキッチンを覗いて頼子に行ってくると声をかけ、居間の方に来た。

「学校に行ってくるね」

「見送るよ」

 制服に着替えた祐希はかわいかった。見た目は地味なセーラー服だが、着崩さずきっちりと制服を着た姿は清楚で魅力的だ。メイクをしているようには見えなかったが、色付きリップで唇がほんのりとピンクに色付いていた。髪はサラサラにセットし直されていた。香水でもつけているのだろうか、今まで皐月が知っていた祐希とは違う香りがしていた。

「なんか祐希、今朝はかわいいね。女子高生って感じですごい」

「なによ、すごいって。意味分かんないよ〜。でもかわいいって言ってもらえて嬉しいな。朝から気分がいいよ」

 祐希は母の頼子(よりこ)と皐月に見送られて学校へ行った。鉄道好きの皐月の記憶では、この時間だと7時15分発の中部天竜行きの普通列車に乗って、学校の最寄りの新城(しんしろ)駅で降りることになる。


 皐月は登校の時間までモーサテの続きを付けっぱなしにして、再び算数の問題集に目を落とした。しかし祐希の見送りで集中力が途絶えたので、テレビの音声が気になって没頭できなくなった。

 問題を解いているわけではなかった。なんとなく断片的に考え事をしていた。算数のこと、受験のこと、真理のこと、祐希のこと、祐希の恋人のこと、そして入屋千智(いりやちさと)のこと……。

 見てもらえないかもと思いながら千智におはようのメッセージを送ってみた。すると、すぐに返信がきた。皐月はこの対応が嬉しかったが、千智も朝は忙しいだろうから返信の返信はしなかった。


 問題集の問題を見ていると、皐月は中学受験という選択を考えもしなかったことを後悔し始めた。これまで何度も真理の塾のテストの問題を見せてもらっていたが、今思うとこういうのを解ける子たちばかりが集まる学校は楽しいのかもしれない。自分と同等かそれ以上の友達ばかりの学校は刺激的だ。

 成り行きで地元の公立の中学に行ったところで、楽しい未来なんてないのかもしれない。皐月は稲荷中のいい話を何も聞いたことがなかった。校則が厳しく、いじめがある。いい先生なんていないという話しか聞こえてこない。

 皐月は問題集を見ながら、今から受験勉強をして入れる学校はあるのだろうかと考えた。真理が言うには、この問題集の例題・練習と力だめし問題ができれば普通のレベルの学校なら合格できるとのことだ。この問題集をやってみて中学受験をしようと思うなら、家にあるテキストを何でも貸すと真理は言ってくれた。

 もし中学受験をしないのなら、こんな本で勉強するのはあまり意味がないだろう。どうせ勉強するなら数学の勉強でもして中学・高校の先取りをした方がいい。漢検を2級まで取った皐月には中学受験よりも先取り勉強の方が楽しそうに思えた。だが、中学受験という選択も捨てがたい。

「ちょっと皐月ちゃん。もうそろそろ学校に行く時間じゃない?」

 もう7時45分になっていた。50分までに班登校の集合場所に行かなければならない。

 これからは及川母娘と朝食をとる生活になるので、朝は1時間の空き時間ができる。明日からはモーサテを見るのをやめて、自分は勉強でもしようかと思った。ただその勉強が中学受験の勉強か先取りかはまだ決めかねている。


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