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藤城皐月物語 1  作者: 音彌
第1章 夏休みと子供時代の終わり
30/104

30 息子の恋バナを肴に

 藤城皐月(ふじしろさつき)及川祐希(おいかわゆうき)栗林真理(くりばやしまり)のことを紹介をした。

「真理はね、名古屋の中学に行くんだって」

「えっ? 地元の中学じゃないの?」

 真理は中学受験をすると言った時の相手の反応が嫌だと言っていた。非難されているような感じがするらしい。

「私立の中高一貫の女子校に行きたいんだけど、私の行きたい学校って名古屋まで行かないとないから」

 祐希がきょとんとしていた。私立の中高一貫の女子校というのがよくわからないようだ。真理はこの説明をするのも嫌だと言っていた。

「さっきママが『真理ちゃんも勉強で忙しいかもしれないけど』って言ってたじゃん。それって受験勉強のことだよ。真理は中学受験をするんだ」

「小学生が受験勉強なんて、私が住んでいたところじゃ聞いたことがないな〜。すごいね」

「真理ってたぶんうちの学校で一番頭いいよ」

「塾じゃ全然だけどね」

 真理はジンジャーエールに口をつけた。「ん〜っ」ってて声を上げながらも気に入っているようだ。

 藤城小百合(ふじしろさゆり)及川頼子(おいかわよりこ)は母親同士で歓声を上げながら飲み食いしている。この日の小百合は少女のようで、師匠の和泉(いずみ)や、真理の母親の凛子(りんこ)といる時とは明らかに違う。


「祐希さんって芸妓(げいこ)になるの?」

「ううん。芸妓になるのはお母さんの方で、私はならないよ。真理ちゃんはどうなの?」

「私も芸妓にはならない。母が大学に行けって勧めるから、そうしようかなって思ってる。祐希さんは大学に進学するの?」

「私は勉強が好きじゃないから、高校を出たらすぐに働くよ。ここに引っ越してきたから、この辺りで就職したらってお母さんは言うけど、私は東京に出たいな……」

 祐希と真理の会話を、お酒を飲みながらも頼子と小百合は聞いていた。

「ねえ小百合、祐希ったら東京行きたいって言うんだよ」

「いいじゃない、行かせてあげれば。田舎の学問より京の昼寝って言うじゃない。若い子は都会に出たほうがいいよ。ねえ、真理ちゃん」

「塾で名古屋に行ってるけど、都会は刺激的で楽しいよ」

 真理は呑気に寿司を食べながら小百合にこたえている。

「心配じゃない、東京なんて。頼れる人もいないし、イザって言う時に送ってあげられるほどお金ないし……」

「じゃあ頼子、あなたも一緒に東京行けばいいのよ。もう離婚して自由なんだから」

「あなた、ここに越してきた初日なのに私に東京行けなんて言うの?」

 わが親ながらひでえこと言うなあと思いながら、皐月はこっそりと大トロを連続で食べていた。早く食べないと、真理に食べられてしまう。

「ねえ、小百合も一緒に東京行こうよ」

「はいはい。一緒に行こうね」


「女子校って男の子いないけど楽しいの?」

「男子がいないから楽しいんだよ」

 気がつけば祐希と真理はすっかり仲良くなっていた。女性陣には勝手におしゃべりしてもらうことにして、皐月はさっき入屋千智(いりやちさと)から来たメッセージの返信を書き始めた。すぐに返信できなくてずっと気になっていた。

「あ〜っ、スマホいじってる。感じ悪っ! 何してんのよ?」

 真理が皐月に問い詰めるような言い方で絡んでくる。

「さっき来たメッセージに返信しなきゃ。祐希はもう返信したの?」

「即レスしたよ」

「うわっ、早っ! いつの間に」

「ねえ祐希さん、千智ちゃんってどんな子?」

 真理が千智に興味を示した。真理は教室で皐月が女子と話をしていても何の興味も示さないので、皐月の心がざわついた。


「千智ちゃんはね〜、すっごくかわいい子だよ。写真見る?」

「あるの? 見せて見せて」

 祐希はスマホを取りだし、さっき撮った写真の中から千智がキャップを取っていて、祐希と二人で写っているものを真理に見せた。

「へぇ〜。こんなかわいい子うちの学校にいたんだ」

「皐月がね〜、千智ちゃんにデレデレしてたんだよ〜」

「してね〜よ! デレデレしてたのは祐希の方じゃん。博紀の自転車に二ケツしてたくせに」

 皐月は祐希のスマホに手を伸ばし、祐希と月花博紀(げっかひろき)の二人で写っている写真を真理に見せた。

「ほら見なよ。祐希、嬉しそうな顔してるだろ?」

「祐希さんより月花の方が嬉しそうに見えるけどね」

 祐希が画面をスワイプして皐月と祐希が二人で写っている写真を見せた。

「皐月と一緒に写ってる時の私も嬉しそうな顔してない? ほら、良く見てよ。私、皐月と写ってる時の方がいい顔してるでしょ。もしかして皐月、私が博紀君と仲良くしてたことに妬いてたの?」

「妬くわけねーじゃん」


 いつの間にか小百合と頼子はおしゃべりをやめていて、こっちの話を聞いていた。親たちは子どもたちの話に興味津津だ。

「息子の恋バナを聞くってのもいいものね。千智ちゃんって子の写真見せてよ」

「私は博紀君って子の写真を見たいな。祐希、ちょっとスマホ貸して」

「あんまり変なとこ触らないでよ」

 とりあえず博紀が一人で写っている写真を開いて頼子にスマホを渡した。

「これが博紀君? まあっ、イケメンね〜」

「うちの子の方がかわいいも〜ん」

「はいはい、そうだね。確かに皐月ちゃんの方が顔立ちが整ってて美少年よね」

 目の前で博紀と比べられては面白くない。頼子の言うこともどうせお世辞に決まってる。皐月は博紀に対してコンプレックスを抱いている。

 祐希が画面をスワイプして、千智が一人で写っている写真を開いた。

「あらっ、美人さんだ。うちで芸妓やったら明日美(あすみ)をしのぐ芸妓になれるかも」

「そうね。でもうちの娘も負けてないわ」

「祐希ちゃんも頼子に似て美人さんだもんね〜」

 二人でケラケラ笑いながら画面をピンチアウトしたりして品評会を始めた。寿司を食べて、お酒を飲んで、子どもたちの話を肴にして言いたい放題だ。

 祐希は変な写真を見られないかと、頼子たちの手元をヒヤヒヤしながら監視している。頼子と小百合から豊川稲荷でのことをあれこれ聞かれるので、皐月は二人の相手をする羽目になった。


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