表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
藤城皐月物語 1  作者: 音彌
第2章 2学期と思春期の始まり
103/104

103 甘美な世界

 藤城皐月(ふじしろさつき)栗林真理(くりばやしまり)の部屋から家に帰ってきた。

 及川祐希(おいかわゆうき)はもう二階の部屋にいるはずだが、皐月が帰ってきても何の反応もなかった。今の皐月は誰にも会いたくない気分だったので、一人でいられることにほっとしていた。

 祐希が気を利かせてくれたのか、エアコンで部屋の湿度が取れている。冷え過ぎていないのが心地が良い。居間で横になり、ぼんやりと天井を眺めていると、皐月はいつしか目を閉じていた。だが、眠りには落ちてはいなかった。ただただ深く回想に沈んでいた。


 皐月と真理のセクスアリスの始まりは、幼かった真理と二人で皐月の家のテレビを見ながら留守番をしていた時のことだった。

 祖母の就寝後に子供が二人だけになってしまうと、眠りにつくまでの間に母のいない寂しさに耐えられなくなるのが常だった。少しでも賑やかにするために、誰でもいいから人の声の聞こえる状態にしておきたかったので、皐月と真理はテレビをつけっぱなしにして蒲団に入っていた。

 遅い時間の番組は子供には全く面白くなかった。だから音楽番組でもない限り、二人はテレビをまともに見てはいなかった。

 ある時、たまたまつけっ放しにしていたドラマの中で男と女のキスシーンが流れた。皐月と真理はそのシーンに目が釘付けになった。

 頬にキスなら母からよくされていたし、皐月と真理でしたこともあった。だが、口から口にはされたことも、したこともなかった。

 好奇心の旺盛な二人はテレビの真似をしてみたくなった。試しにやってみたのが皐月と真理の初めてのキスだった。


 この日以降、二人で母を待っていても取り残されたような気持ちになることはなくなった。寂しい時はいつも抱き合って、キスをしていた。

 時間を埋める人の声や映像は、皐月と真理には邪魔でしかなかった。もう寝るからと祖母を安心させ、照明を落としてもらい、部屋を出て行ってもらう知恵を覚えた。

 二人が寄り添って寝ているところを、お座敷から帰って来た母たちに見られることが多くなった。最初は仲がいいことにほほ笑んでいた母たちだが、いつしか仲が良過ぎることを心配するようになった。凛子(りんこ)がマンションを買うと、真理が皐月の家に泊りに来ることがなくなった。


 真理に泊っていってほしいと言われた時、甘い思い出が一瞬で甦った。皐月は泊まるための方策を見つけるため頭脳をフル回転させたが、現実的な答えを見出すことができなかった。

 今の皐月には冷たく突き放すことしかできなかった。だが、結果的にそれが真理の刺激的な見返りの要求を引き出すことになった。

 最初は幼かった頃のように軽くキスしていたが、皐月の気持ちはいつまでも落ち着かなかった。それは真理も同じだったようで、二人ともだんだん変な気分になってきた。子供の頃とは全然違う感覚だったが、もう六年生にもなる皐月と真理はこの意味をわかっていた。

 皐月は友だちの花岡聡(はなおかさとし)と一緒に見たアダルト動画の真似をしてみようと思った。子どもの頃はキスの時に舌を入れたことなんてなかったので、真理はひどく驚いた。だが、実は仕掛けた皐月自身も驚いていた。

 舌を絡めるキスは気持ち悪いかもしれないと思っていた。だが実際にしてみると全くその逆で、今までに感じたことのないくらい気持ち良かった。真理は最初こそ軽く抵抗したが、すぐに皐月の行為に応えてくれた。

 痺れるようなひと時だった。こんな狂おしい体験は二人にとって初めてだった。皐月にとって意外だったのは、自分よりも真理の方が興奮していたことだ。

 皐月はディープキスだけではおさまらず、キスをしながら真理の体に手を這わせた。真理の体がピクンとなった。

「お母さんもこんなことしているんだ……」

 真理のこの一言が哀しくもあり愛しくもあった。皐月はもうどうにでもなれという気持ちになり、二人は快楽に身を任せ、甘美な世界へと溺れていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ