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藤城皐月物語 1  作者: 音彌
第2章 2学期と思春期の始まり
101/104

101 情緒不安定な夜

 栗林真理(くりばやしまり)がペットボトルに入ったジャスミンティーとグラスを二つ持って来た。

 真理は藤城皐月(ふじしろさつき)の正面ではなく隣に座り、ペットボトルを目の前に置いた。皐月が真理のグラスにお茶を注ぐと、真理は一気にお茶をあおった。

「バカな飲み方するなよ。それじゃまるでヤケ酒みたいじゃんか」

「稲荷中に行ったら美耶(みや)ちゃんとまた一緒になれるね。良かったじゃん」

「はぁ?」

「本当は美耶ちゃんと同じ中学に行きたいんでしょ?」

「何言ってんの? 筒井(つつい)なんて関係ないだろ?」

 皐月は真理が他の女に嫉妬しているのを初めて知った。

「皐月って最近モテてるみたいだよね。月花(げっか)のファンクラブの子、少し皐月に流れているみたいだよ」

「そんなの知らんわ。お前の妄想じゃね?」

「そんなことない。だって私、聞いたもん、トイレで話してるの。皐月が髪型を変えてから好感度が上がったんだってさ」

「ふ〜ん。でもそれって別にモテてるわけじゃない。……で、誰が言ってたんだ?」

「そんなの言えるわけないでしょ」

「なんだ、ケチ! 教えてくれたっていいだろ?」

「あんた自惚れたいの? その子たちのこと知ってどうしようっていうの?」

「そんなの、どうもしないけどさ……まあ、ちょっとくらいはそいつに優しくしてやろうかなって……」

「バカじゃないの?」

「なんだよ、バカって。だったらそんな話するなよ」

「あんたが調子に乗ったこと言ってるからバカって言ったのよ!」

 脇腹を軽く殴られた。二人が子どもだった頃、皐月が真理によくやったことを今やり返された。二人がお互いの家を行き来しなくなってからはこんな風にじゃれ合うこともなくなっていた。

「5年生の千智(ちさと)ちゃんって子、皐月あの子と付き合ってるの?」

 真理は執拗に絡んでくる。美耶程度で嫉妬するなら、超絶美少女の入屋千智(いりやちさと)や、一緒に住んでいる女子高生の及川祐希(おいかわゆうき)への嫉妬は凄まじいものなのだろう。

「千智とは付き合ってねえよ。ただの友だちだよ」

「この前、昼休みに5年生の教室まで会いに行ったでしょ。結構話題になってたよ」

「なんでそんなしょーもないことが話題になるんだよ」

「あの子かわいいから有名なのよ。それに最近、皐月とあの子が二人でいるところを見たっていう子もちらほらいるみたいだし」

「別に見られたって構わないけどさ。コソコソするつもりもないし」

「なに交際宣言みたいに格好いいこと言ってんの。じゃあ美耶ちゃんはどうするの?」

「どうするのって、どうもしねーよ。なんで筒井の話になるんだ?」

「だって美耶ちゃんって皐月のこと好きじゃない。皐月がモテたら可哀想だなって……」

 真理がひきつった顔で泣きそうな顔をしている。

「どうしたんだよ、真理。今日のお前、ちょっとおかしいぞ」


 本当に今日の真理はおかしい。真理は今まで他の女子を引き合いに出して、ここまで感情的になったことはなかった。どちらかといえば真理は皐月が他の女子と仲良くしようが無関心だと思っていた。

「……今日だけじゃないよ。お母さんが泊りの時は大抵おかしくなってるよ、私。自分でも嫌になるくらいメンタルがおかしくなる」

 真理は皐月から顔を背けるようにうなだれている。

「そんな時は俺に声を掛けてくれたら良かったのに」

「皐月に何ができるって言うの?」

「何がって……わかんないけど、真理のそばにいることくらいならできるよ」

「じゃあ、泊ってってよ」

「えっ?」

 真理が皐月の方に顔を向け、身体を寄せてきた。

「泊ってってって言ってんの。昔よくお互いの家にお泊りしてたよね」

「……ああ」

「だからさ、今日は(うち)に泊まってよ。ねっ」

 穏やかな目をしていた。感情の揺れも消えていた。皐月はこんな美しい真理の顔を見たことがなかった。

 このままずっと見つめていたかったので、真理の言葉に何も返す気が起こらなかった。もう一度真理に返事を促されたら何と答えようかと考えたが、真理は何も言おうとしなかった。


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