佐渡渡り
9話 佐渡渡り
新潟とやの湖桜まつりというのがあるので行ってみた。
花より団子の静ちゃんだ。たしかに桜もいいが食べ物に目が。
濡れ女さんに貸したお金が返ってきたのもあり、ちょっと目につくと買食いしてしまう。
「アヤは食べないの?」
「ええ、いいわ。最近ぽっちゃりしてきたかなぁって」
「そんなの気にしてるのぉ。三日もすればもどるわよ妖怪だもの」
まあそれもそうだが。
「静ちゃん、あまり無駄遣いすると、後々大変だよ。まだはじまったばかりだし昨日のおにぎりも買いすぎたよ」
「そうかなぁ八分目だったけど……アヤ、小さいコトを気にし過ぎだよ。まえも、どうにかなったじゃない。妖怪だもの」
楽天的な静ちゃん。でもまあそういうトコ好きなんだ、わたし。
「静にそんなこと言っても無駄だアヤ、奴は底なしだから」
「出たな、醜女!」
「出たも何も、わたしゃいつもココだ」
わたしの後頭部の裏アヤがよけいなコトを言うと静ちゃんと争いになる。なんでふたりは仲良くなれないのだろう。
「あ、見てあそこに変なのが居る」
静ちゃんが指差す方に大きな棒のような物をかついだオジさんが。
今どき上は和服で下はふんどしで裸足だ。団子を食べながら歩いてるが、周りの人は気にしてない。
アレは人じゃない。
「白昼堂々舟幽霊かしら」
「舟幽霊? こんなトコに」
「肩に乗せてるの舟のカイだよ」
なるほど、よく見れば棒の先の方が平たくなっている。
あっ、こっち見た。
「前歯の一本無い歯を見せて笑ってるよ。あいつ団子振ってる。あ、こっちに来る」
「やあ、あんたら人じゃないね妖気がする」
と、顔を近づけ鼻をくんくんさせた。
妖気は体臭じゃないんだけどなぁ。
「失礼ね、あんた何よ。あんたも妖気と潮の香りスゴイわよ!」
「べっぴんさん、大きな声出さない。見えてるのは、あんたたちだけだから。わたしゃ佐渡から来た『佐渡渡り』というもんです」
佐渡渡り。妖怪化した舟幽霊かしら。
「あんた、佐渡から」
「そうす。もともと佐渡へ行く人間の船頭をしていたんで。本土への未練が有りすぎたのか海の真ん中で死んだのですが……」
佐渡渡りは、自分の生い立ちを話しはじめた。
「おい、あたしら急いでるんだ。あんたの話、聞いてるヒマはないの、じゃあ。来た! おーい」
って、静ちゃんが走り出した。来たって、誰が。
アヤ、静のウソだ。佐渡から逃げるのな。
なるほどそうか。
「佐渡渡りさん、じゃあね」
佐渡渡りさんは、歯のない前歯を出して笑顔で団子を振った。
わたしはあわてて、静ちゃんを追ったら、急に止まり。
「ウソ……」
静ちゃんの視線の先に見慣れた顔が。
「あら、あんたたち。偶然ね」
あの二人は。香華クリエイトの金沢さんと天野さんだ。
「久しぶり。またヒッチハイク旅、してるのおふたりさん」
ショートヘアーは変わらないけど白いルージュではない天野さんだ。
天野さんもシズカちゃんなんだよね。たしか天野志子華。
「遠野に帰ったの? まさか、あれからずーっと。て、なわけないよね」
「あ、ゴメン。連絡忘れてた。帰ったよ」
「ね、こーゆー娘だから。金沢さん心配してたんだよ」
「なら、いつでも電話くれれば」
と、静ちゃんはスマホを出した。
「それ、友だちのじゃないの? まだ持ってたの」
「ええ、まだ借りてる……」
思わぬ再会。
わたしたち縁が深いのかな。
そして、ふたりのクルマで新潟を出ることに。
ふたりは長野へ行くそうだ。
また、知人のおかげでヒッチハイクは楽になった。けど、知り合いのクルマに乗せてもらうのはヒッチハイクではないのかなぁ。
まあ交通費がうかぶ旅ならいいか。
つづく