居酒屋なめや
84話 居酒屋なめや
「田中みそぎ、これから用ある?」
赤名先生のバイトが、終わり飛縁魔ひづるに誘われた。
「特にありません」
「じゃ飲みに行かない。呑めるでしょ?」
「まあ普通に」
最寄りの駅の商店街に何軒かあるのは知っていたが入るのは、はじめてだ。
「なめや……」
赤ちょうちんにはそう書いてある。
「その文字、あのエロジジィが書いたのよ」
「先生が、ですか」
「ああ、この店、ジジィの常連の店なの」
何軒かある居酒屋で一番小さくて古い店だそうだ。
「いらっしゃい! おお、エンマちゃん」
エンマちゃんって、ここは地獄か、オヤジ。
「焼き鳥食べる? 今日は奢りだから、遠慮しないで呑んで」
「はい、焼き鳥大好きです。特に皮が」
「オジさん、焼き鳥の大盛りお願い、皮多めに入れて。あとホッケも二つ。あ、魚、大丈夫?」
「はい」
大雑把なようで気をつかう人だな。
「私さ、北海道から通ってるのよね、明日帰るからこの店にしばらく来れないの」
え、そのカッコで。
飛行機乗るの。
それとも新幹線?
てっきり近所に住んでると。
いつもジャージ姿だから。
まさか、そんな遠くから。
「そうなんですか。都内かと」
「姉と違って東京には住む気になれないの」
「はい、いつものビールジョキ」
「コレで良かったかな。いつも座ると、これだから頼まなくでも出てくんの。イヤならナニか頼んで」
「いいです」
三十分くらいたつたかな。
「あたいの前にモデルしてた娘は、あのジジィの変態ぶりにやめたの。でさ、やめた娘には口止め料払ったんだよ。あのジジィ。あんたも、やめる時は、ちゃんと言ってやめた方がいいよ」
「はあ」
「ところで、あんた処女」
「いえ」
ウソをついた。
「だよね、生娘じゃあのジジィのモデルはきついよね」
「あの、そんな大きな声で」
「あんた、だから言うけど実はあたし、処女なの」
なに? 先生のモデルはきついと言ったそばから大丈夫なのこの人。
っつーか、冗談?
「みそぎちゃん、今、冗談だと思ったでしょう」
読まれた?!
「あ、いえ」
「いいよ、べつに。あ、でも安心してねユリとかじゃないから、帰りに押し倒したりしないから」
酔ってるから変なコトいってんのよね。
でも、今日は先生の注文で、彼女と裸でからみあった。
あの時の彼女を思い出したら。なんだか、だんだん変な気持ちに。
あぶない。抱かれたくなった。
一時間くらい呑んでたかな。
飛縁魔ひづるは、ホテルへ帰った。
そして、あたしは家に帰るのに地下鉄へ。
地下鉄のホームで電車を待ってると。
ホームを日傘をさして歩いて来るのは。
白いロリータだ。
アレが噂の地下鉄のメリー。初めて見る。
ホントに居るのね。
こっちに来る。
噂に違わぬ美少女だ。
いくつなんだろ? 見た目は若いけど。
彼女があたしの目の前を通り過ぎる時にあたしを見て言った。
「あなた、モノノケと会ったわね」
つづく




