酒瓶ダヌキ
8話 酒瓶ダヌキ
さて、新潟まで来たのはいいが、深夜だ。
とりあえずコンビニを見つけたので買い物をした。
宿をどうするかだわ。
「街から離れて野宿でもする?」
「野宿するにはまだ寒いんじゃない」
妖怪でも、人間程ではないが寒さを感じる。まあ凍死することはないが。
「あんたら、妖怪だね」
タヌキ……。
二本足で立ち、あたしたちの半分くらいの背丈のタヌキだ。手に酒瓶を持っている。
新潟とはいえ街なかでタヌキに話しかけられるとわ。
「そうだけど、ナニ?」
「その言葉は、土地のもんじゃないね。旅行者かい」
「そうよ。この街に妖怪が泊まれる宿ないかしら」
「宿……妖怪の……。街からちょっと出たトコに婆さんが一人でやってる宿があるけど。一緒に行くかい」
ちょっとってどれくらいかな。
街を出てけっこう歩いた。
「アレだ」
タヌキが指さした方に二階建ての建物が。街から離れたから外灯とかなく、妖怪の目で、かろうじて見えた。
近くまで来るとタヌキは戸を叩いた。
すると戸が開き中からお婆さんが。
「潟バァ客だ」
「入りな」
タヌキは客引き?
「素泊まりかい」
「ええ、夜が明けるまで休ませてもらえばいいわ。寝床もいらない。いくら?」
「あんたら妖怪だね……。一人五百円だよ。あと、タヌキは泊めないよ」
「オレっちは、ここに連れてきただけだ、ウチに帰る。じゃあな、べっぴんさんたち」
と、言ってタヌキは酒瓶からぐいっと飲み、前足を振って行ってしまった。
「いいタヌキさんだね」
宿に入ると真ん中に囲炉裏があった。
わたしたちはそこへ座り街のコンビニで買ったおにぎりを出した。
お婆さんは囲炉裏のヤカンでお茶を入れてくれたけど。
「お茶一杯百円」
「金取んのかよ婆さん。いらないよペットボトルで持ってる」
「温かい方がよかろう」
「温かいの買ったから……もう冷めてるけど。それにお茶一杯百円は高いぞ婆さん。宿賃に含まれてないの」
「妖怪も何かと金入りだからのぉ」
お婆さんは一杯目についだのを拒否されたので自分で飲んだ。
そして、わたしと静ちゃんのリュックから出したおにぎりの量に目を丸くした、
「あんたら、二人でこんなに……」
静ちゃんの髪が手のような動きをしておにぎりを取り後ろの口に入れだした。当然前の口でも。
妖怪宿だからか出来る。
わたしは二面なだけで胃は一つ食量は人並み。
「おや、もしかしたらあんたたち遠野から来たのかい」
「そうだけど」
「二口と二面のふたり……。河ババァを知ってるかい?」
「婆さん、河ババァの知り合い?」
「秋田でよくやるババァ妖怪の寄り合いが、あっての河ババァとは、よく話すんじゃ。で、あんたらのコトをよく聞いとる」
それから、お婆さんはタダでお茶を出してくれて朝まで話した。
朝、宿から出ると宿屋が空き家に変わった。
「ババァ妖怪の寄り合いって、はじめて聞いたよ」
「ババァ妖怪は多いよね……。夕べのタヌキが、ガタバァとか言ってたけど、あれ『新潟ババァ』かなぁ」
「帰ったら河ババァに聞いてみっか」
つづく