初サイン
73話 初サイン
「ちょっとコレ見てごらん」
オジさんは、さっき撮ったカメラの画像を見せてくれた。
ああ、これは望遠レンズで撮った一反姐さんの画像だ。
あの高さだから、ハッキリは写ってないが、どう見ても平たい女の顔が、短い腕で下のカメラに向かってアカンベェをしてる。
「コレは空飛ぶ円盤とかじゃなく妖怪だ!」
「こいつは『一反姐さん』というの。妖怪種では姿が人にも見える中で、人型ではない珍しいヤツよ」
「『一反姐さん』、初めて聞く名だ。一反木綿のメスか、なんかかな?」
「いいえ、一反とか付くけど姐さんは一反もめんではないの」
「そうなのか、俺もいろいろ勉強してるが。あんたすごいな」
「本人、いや本妖から聞いたのだから間違いないわ。このアカンベェはあたしにしたのよ」
「ホントかよ」
「静、こいつと、知り合いなのね」
「まあ……カスカベとか、ボロ傘小僧とか知ってるわ」
「どれもはじめて聞く名だな。あんた霊能力者か?」
「あぁとりあえず言っとくけど、あたしは霊感とかないから。幽霊とかは見たことないし、感じない。妖怪と接触出来るだけ」
「でも、スゴイよ静」
「いやぁ恐れ入りました。あんたが居たからこの写真撮れたんだなぁ」
そんなコトはどうでもいいんだ。なぁアヤ。
クルマをつかまえられずに、このままオヤジと歩いて旭川まで行くのか?
さすがに、あたしもう歩きたくないわ。
「妖怪写真はスクープだけど、クルマつかまえないとねえ静、あたし疲れた」
シズカさんもか。
「姐さんたち、鍛えな。まだ、半分も来てないぞ」
「べつに鍛えなくてもいいから、おっさんといると、クルマが停まらないから、離れて歩こう」
「あ、クルマだよ」
「ああ、残念だな。停まってくれなかった。今のは、キャンピングカーってヤツだよな。一度乗りたかったなぁ」
「あのクルマはどう違うの?」
「ああ、車の中にキッチンとか、ベッドとかあるんだ。値段によって違うが走るワンマンアパートみたいなぁ」
「今度乗せてやろうか。今回は電車で来たがウチにも一台ある。フィールドワーク用に買ったんだ。で、あんたらの連絡先教えてくれ」
「ナンパかよ、おっさん」
「スケベ心じゃない。妖怪研究家先生とお近付きになりたいんだ。名刺でも」
「そんな物ないよ。素人だから」
「あのーあんた、さっきから気になってたんだが。静さんとか……。もしかして二口女の静さん?」
え、このオジさん妖怪かしら。静ちゃんバレた?
「あの『新・妖異百物語』で、二口女を演じたモデルの静さんだよね」
そういうコトか。
「あの映画大好きで4Kソフト買って何回も見てます。よかったら、このリュックとノートにサインいただけると嬉しいんだけど」
サイン?! 実はそんな物書いたことがなかった。ハッキリいって字はあまり得意じゃない。
だって、学校なんて行ったことないのだから。
静の名を文車妖妃からもらった時に字を書いた紙も、もらっていて、それ見て練習したが。さて、久しぶりだ。
あたしは、渡されたペンで「静」と一文字適当に書いた。
「静かって意外に達筆だなぁ……なんか惚惚するよ。あたしにも後で書いて」
無理かも、コレと同じのは。
ソコに大型のワゴン車が。
「おーい、あんたたちヒッチハイク?」
「そうなんだ。あ、このおじさんはウォーカーだから、あたしらの連れじゃない」
「遠慮しないで、みんな乗りなよ。大勢の方が楽しいから」
小型のバスみたいだ。
わたしたち四人が乗っても余裕だ。こんな大きなクルマに3人しか乗ってなかったの。
つづく




