濡れ女
7話 濡れ女
「そうよ、お久しぶり。よかったらお乗りなさいな」
なんと、わたしたちは静ちゃんの旧友という「濡れ女」のクルマに乗ることに。
わたしは、はじめてだけど濡れ女って蛇体の吸血妖怪よね。
「何処まで行きたいのかしら?」
「とりあえず新潟まで」
「ですって、運転手さん」
「はい、お嬢様」
濡れ女さんが、なにやら座席の横のボタンを押すと運転席と後部座席の間に透明なボードが。
「コレで自由になんでも話せるわ。運転手には聞こえませんわ。わたくし、今は人間名を柳行李麗と名乗ってますウララと呼んでけっこうよ」
座席は向かい合ってる。こんなクルマ、はじめて乗った。
「ヤナギゴオリ・ウララ。なんか、お嬢様ってかんじだけど柳行李はちょっと、あんたのセンス?」
「たまたま、旅の途中だった文車妖妃につけてもらったのお嬢様ぽいのをって言ったら。柳行李はやっぱりイマイチかしら……ウララは気に入ってるのだけど」
「あんたのお嬢様言葉も違和感があるわ。実はあたしも文車妖妃につけてもらったの草双紙静よ」
「草双紙って、江戸時代のこっけい本じゃない、笑えるわ二口さん。で、そちらは?」
「はじめまして。わたし二面女の綾樫彩です」
「はじめまして。二面さん。もう一つの顔は?」
「お初、裏アヤだ」
裏アヤの顔が、表の私と入れ代わった。
「こいつ、醜女でしょ。ウフフなんか、昔のあんたと似てるわよね」
「鬼面ヅラは、皆似てるよ。般若顔とか言われる」
「しゃべりが昔に戻ってきた」
「あんたとしゃべってるせいだ」
「またなんで、あの長い黒髪を。ショートの金髪じゃ。わからなかった」
「ああ、コレか。ちょっと前まで黒髪だった。髪切ったのはイメージ的に似ててよく間違われてた『磯女』とは違えるためだ。切ってショートにした頃、当時旦那が好きだった山口百恵に似てると喜んでくれてな、夜が萌えると……」
「ノロケ話はよして。濡れ、あ、ウララか。随分羽振りが良さそうだね」
「ええ、明治の終わり頃に出会った旦那のおかげだ、こいつが半妖怪で人間界で顔がきく。おまけにあたいに血をくれるんだ」
「明治の終わり頃じゃもういい歳だろ、いや死なないと怪しまれる年頃だ」
「そこは、うまくやってる。息子のフリをし、あたしゃその娘だ、いや孫か。長生きしてるとなんだかわからなくなる……」
「人間社会で生活してる連中のあるあるよね」
「あんたは、どうなんだ?」
「あたしらは田舎でひっそりと暮らしてるから……この時代お金がないのだけが難儀よね」
「で、ヒッチハイク旅を?」
「まあね、運賃節約。地方にはないけど東京には妖怪専用の宿が有り宿代タダなんだよ」
「新潟にもあるのか?」
「さあ、行ってみないと……」
深夜に新潟に着く。
帰り際、濡れ女さんが、昔借りた金と、静ちゃんに封筒を。
「あいつ変わったなぁ。リッチになったからかな」
つづく