赤名の原稿
63話 赤名の原稿
「高田くん、赤名先生のとこ行ってきて。表紙用の絵があがったって」
「バイトの田中さんは? 彼女が行くと先生喜ぶそうじゃないですか」
「なんか用があって、今日は来れないと」
「そうなんですか」
唐沢さんも一条さんも、手は空いてそうだけど、行きたくないんだろうなぁ。
目が合ったらそらされた。
「はい、いってきま~す」
赤名邸近くまで来た。この辺は駅から遠いのにバスも通ってない。タクシー乗るほど遠くもない住宅地。
アレ、前を歩いてるのは。
バイトの田中ミソギ?
あ、赤名めじろの門に。
彼女バイトに、はいれたのかな?
スマホを見て確かめたが、ナニも連絡は入ってない。
「おスッ!」
「わあっ、脅かさないでくださいスマホ落とすとこだつたじゃないですか。飛縁魔先生……が、なんでこんなトコに?」
「わたしは妹のひづるだ、編集君」
「妹さんか。あ、はじめまして、ですよね。あまりに姉のみずちさんに似てるから、はじめてのように思えないです」
「はじめて、だつけ? 編集君」
だよな、また酔っ払って会ってるコトないよな。
「もしかして赤名先生のトコに」
「そーだよ」
「先生のあの美しいイラストの女性はすべて妹さんなんですか?」
「すべてじゃないわ。それにあのジジィはけっこう誇張して仕上げるから、わたしより美人になってるわ。ちなみに今ノーメイクだけど写生の時もノーメイクなの。ジジィは仕上げにメイク入れるから、絵はジジィのメイクね」
赤名邸。
「珍しいカッブルでの訪問じゃな」
「たまたまソコで会いました。つかぬことを聞きますけど。ウチのバイト、来ましたよね」
「ジジィ、先に行ってる。ミソギは来てるの?」
「来てるがナニか?」
「原稿取りにじゃ?」
「聞いてないのかね。コレも飛縁魔くん同様。ナイショにな。ワシの新しいモデルじゃ」
「彼女なにも……。もしかして最近の少女絵は」
「そうじゃ。くれぐれも」
赤名めじろは口に立てた人差し指を。
彼の絵にはモデルがいないコトになっている。が、女性絵は飛縁魔ひづる。
少女絵はバイトの田中ミソギだって。
バイトの田中が赤名に気に入られてるというのは、こういうコトか。
「高田君。口止め料じゃないよ。コレで美味しいモノでも食べなさい」
と、赤名めじろは、原稿袋とべつにポチ袋をくれた。
編集部には黙っていてもいいか。
駅までの帰路、半分まで来た所で雨が降り出した。また、だ。
もしかしてボク、妖怪濡れ濡れに憑かれてるのかな。原稿濡らしたら大変だ。
幸い雨は、たいしたことないが、やむ気配はない。カートンケースに入れた原稿を上着で包んで走った。
雨のあたりが弱くなった。いやなくなった。
横でいい匂いが。どこかで、かいだ匂いだ。
上を見ると傘が。
ボクの横を走る白いドレス。
ボクは止まった。
隣に地下鉄で会ったロリータ・ファッションの美少女がボクに傘を。
ソレ日傘では?
「荷物大事な物ね」
「ありがとう。でも、その傘じゃ君濡れてるよ」
「たいした雨じゃないし。防水スプレーかけてるから大丈夫。駅まで?」
「そうです」
「あと少しね」
ボクらは並んで駅まで歩いた。
駅に着いて。
彼女は、ボクの背中を叩いた。
「気に入られちゃたのかな? 濡れ濡れが憑いてたわ。でも、追っ払ったから」
と、言って、駅の地下鉄口の方に。
「待って!」
階段を降りる寸前に。
「コレ、洗濯代」
と、赤名にもらったポチ袋を渡して改札に走った。
ホームに昇ったら丁度電車が。
昼間でガラ空きのシートに座り上着で包んだ原稿用カートンケースを見た。よし濡れてない。
コレ濡らしたら最悪だ。赤名のジイさんの生原だと、たいへんな値段だ。
いくら入ってたか見なかったけど、あのポチ袋に入ってるだけで足りただろうか?
クリーニング代。あの衣装に防水スプレーなんてウソだ。
助かったロリータちゃん。
つづく




