キリストの墓
57話 キリストの墓
早朝に出発して、まず盛岡に向かった。
まえに青森へ行った時に行けなかったキリストの墓へ行きたいという金沢さんの希望で盛岡から、八戸方面へ向かった。
「なんでキリストの墓が、日本にあるのよ」
「あの、十字架にかけられたのは、イエス・キリストの弟イスキリなんだって。で、イエスは、若い時に修行に来ていた日本に逃亡し日本で百何歳かまで生きたそうよ」
「かなり、トンデモな話ね。日本で修行したの……キリストが。山伏姿の外国人想像しちゃうわね」
キリストかあ。
外国の神様という十字架に張り付けられたロン毛でヒゲの痩せたオジさんというイメージしか、ない。わたし。
墓まで時間がかかった。もう夕方に。
まあるい小山に十字架が二つ。一つは弟さんだそうだ。
いろいろ書いてある看板の写真を撮ってる金沢さん。
教会のような資料館は、もう閉まってて入れないと。
夕暮れだ。妖怪が出ると言われる黄昏時だ。
「静ちゃん、あのお墓のそばに居るのはキリストさんかな?」
「お墓の中には死んだ人は眠ってないのよ。歌があったわよね……。でも、あのロン毛といい髭面といい、似てるわね。あっちの二人には見えてないみたいだよ」
「あ、こっちに来るよ」
「やあ、あんたら人間じゃないね」
「あんたはナニ?」
「ワシは、このあたりの土地神だ。戸来霧彦と、まえは呼ばれてたが、ここにキリストの伝説が言われるようになってから、なんでか容貌までキリストのように」
「あんたキリスト妖怪になっちゃたんだよ」
「そうかもな、キリヒコの名など誰も知らなくなったよ」
「名前が似ていたんで、キリスト伝説になったんじゃないの」
「そういうものかの? わかりやすいのは確かだが、ちと悲しい。このあたりには昔外国人が住んでおったから日本のわしなんぞ忘れられたんじゃ」
「おーい静、この辺はどうなの? キリストが墓に眠ってるの見えたりするの」
シズカは、あたしのコトを霊能者か、なんかと思っているらしい。
あたしは妖怪は見えるけど霊は見えない。
ああ、このキリストもどきはやはり妖怪の類らしい。
「なんにも眠ってませーん」
「だよね、キリストの墓なんてありえねーよな」
「でも、キリヒコが入るよ」
「キリヒコ? なにそれ」
「土地神だよ、拝んであげて」
「土地神かぁ」
シズカさんは、パンパンと手を叩いて墓の十字架に拝んだ。
「お嬢さんありがとよ」
「何やってんの、ここは神社じゃないよ」
「あ、静がね、ここに土地神様が居ると。居ると言うから、キリヒコって言うんだって」
「キリヒコ……」
つづく




