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宿を出る

48話 宿を出る


「そろそろ帰ろうか。アヤ」

「わたしは、いいけど……」

「ホントは服とか見たかったけど、やっぱり食欲に負けたわ。予算もまえほどは、ないからね。遠野に帰ろうかと」


「やっぱりヒッチハイクよね」

「やだ?」

「ぜんぜん大丈夫よ。静ちゃんと一緒なら」


「こら、抱きつくな。今日は、まだ5月なのに夏みたいに暑い。東北の寒さが懐かしい」


 来る時に着ていた上着が荷物になる。

 リュックに押し込んで。

 スーパーで安いおやつを買い。


 宿を出た。


 大きな道路目指して歩いた。

 行き先は「北へ」とだけ書いた。

 目的地を書くより停まると、行きのヒッチハイクで学んだからだ。


「姐さんたち、今日は何処へ?」


 わたしたちに声をかけてきたのは車屋さんだ。

 観光地で引いている人も、浅草とかで見かけたが。

 その声をかけてきた人力車夫は人間ではない。

 下半身しか、ないのだ。腰から出た腕がクルマを持ち筋肉質で太い脚。足袋ではなくNIKEの運動靴を履いている。現代的だ。

 あれ、人間の人力車夫は足袋じゃなかったかな?


 多分、彼は人間には、見えてない。


「ウチに帰るとこだけど……」

「何処まで? 都内の何処でも乗せてくよ……ああ、でも姐さんたち、東京じゃないね。上野駅までなら行ってあげるよ北へ帰るんだろ」

「上野……駅はあまり関係ないんだ。ヒッチハイクだから。それにあたしたちにお金ないよ」

「お金出すなら県境までだが、上野ならタダでいいよ。姐さんがた」


 と、いうわけで、わたしたちは車に乗った。

 妖怪人力車だから乗ったとたんわたしたちは、人間には見えなくなってる。


「あっしは、江戸の終わりから車を引いてる『夜走りカスケ』っていうもんでね。はじめは夜しか走らなかったですが、妖怪たちが昼間にも動き出してね。あっしも昼間から仕事はじめました」 


「あたしらみたいなの昼間に乗せて損なんじゃないの」

「実はあっし、姐さんたちを知ってるんで」


「え、ドコかで会ったけ?」


「いや、直接は。あっし、ハロウィンの百鬼夜行でも、映画の撮影の百鬼夜行でも姐さんたちを見かけてましてね。お美しいカップルだなぁと」 


「カップルじゃないんだけどね」


 わたしはカップルでいいよ。


「先程、歩いてるのを見かけまして、声を。あっしのような異形で迷惑でしたかね」


「いやぁ妖怪は異形が当たり前だから。気にしてないわ。むしろこっちが助かってるし。ありがとうねカスケさん。名前、覚えとくわ」


 すると人力車夫の上半身がぼんやり見えてきて。片腕で目をぬぐってるのが見えた。


「ナニ泣いてんのよカスケ」


「名前を憶えてもられるのが嬉しくて……うっ」


「今度、東京に来たらお金払って乗るから。板橋の妖怪タクシーより早いし」


               つづく

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