遠野の有名人
34話 遠野の有名人
「え〜と。あ、一反姐さんとか。遠野の知人に聞いて。いろいろ調べたんだけど、そんな妖怪は本には乗ってなくて。妖怪によっては別の名前、その土地独特の名があるから。遠野に来たんで調べようと思いまして。あ、私アマチュアですけど妖怪を研究してます」
「遠野には、そういう人、たくさん来ますからね。他で、その河ババァとか、一反姐さんのことを聞きました?」
「いいえ。少し前に着いて、食事をして。クルマを駐車場にあずけてきたところで、まだ誰にも。前に来た時もクルマで。駅あたりは来てなかったので、フラフラとこの辺を」
「そうですか」
河ババァとか、一反姐さんは、遠野の人間は知ってるのか? ハッキリ言ってオレは知らなかった。奴らはメジャーな妖怪ではないとは思ってたが、やっぱりな。
「どちらも……。知りませんね。一反姐さんは一反もめんの仲間ですか?」
「どうなんでしょう。名前しか聞いてなくて。一反もめんはアニメとかで有名ですけどね。それに一反もめんって九州ですよね」
「そうですよね、でも空飛べるのなら何処へでも。姐さんってくらいだから一反もめんのメスですかね」
今、ウチでTVドラマ見てるなんて言えない。
「ありそうですね」
「一反もめんに女の顔が付いていて、髪が長くてひらひらとなびかせて飛んでいる」
「見たんですか、そういうの?」
「いや、想像です」
「河ババァってなんだと思います?」
「さあ、河で洗濯とか、野菜洗ってるとか。その辺の婆さんみたいだったら、妖怪か人間かわかりませんね」
あの婆さん、よく農家で何かもらってくるけど、農家の人は妖怪だとわかってないのだろうな。
「そういう人間の世界に、とけ込んでいる妖怪も居るようですね」
静やアヤもそうだ。
「妖怪には、特別な能力のある人にしか見えないのと誰にでも見えるのがいるようで。人に見える妖怪って、たいてい人の姿に似てるので、わかりづらい。河童とかは、見えるけど。よく見ると人とぜんぜん違いますよね」
「ですね。あんな人間居ませんよね」
「ある小説で、女の河童は人みたいで、わからなくて人が恋してしまう話……それ芥川龍之介でしたっけ?」
「いや、芥川の河童の設定と似てますけど、ソレは多分『幻創文学エンタ』に載っていた『河童恋愛行』じゃないですか。女の河童と人間の小説家が逃避行するやつ。たしか、作者は摩訶富仕義だと」
オレの作品だ。
「あ、そうでした。女の河童が小説家と駆け落ちして東京で同棲生活する。あ、でもアレって女が河童の意味あったんですかね。東京で、ただの同棲してた男女の話でしたよね」
おあ、痛いトコつかれた。編集部にそんなハガキが、きたと言われたな。
「私、ドコが幻想文学ですかって、アンケート・ハガキに書いたの思い出しました」
あんたか?!
「その作家は、嫌いですか?」
「あ、べつに。その後の作品は、けっこう好みです」
あの後、編者の唐沢だっけか、男は皆イケメンにして書けと。
まあその方がウケたのは確かだ。
読者に女性が多いと聞いた。
そういえば、美少女ばかり出る飛縁魔みずちの作品はオタクのヤローファンが多いと聞いて。オレは美少女をあまり出さなくしたんだ。
「あの地元の人なら、この遠野出身の有名人、知ってます?」
「何人かは……サッカー関係とか、今出た小説家の摩訶富仕義とか」
「俳優さんとかでは?」
「芸能関係だと六華亭遊花とか……」
「若い女性でモデルで女優もしてる『静』って……」
「ああ、『新・妖異百物語』に出てた」
「知ってます?!」
「ああ、ココ出身というコトだけ。東京に居るんじゃないかな」
ウソではない。
「こちらには住んでいないのですね。映画に出る前に知り合って遠野に居ると聞いたものですから。来れば会えるかと。住所とか知りませんよね」
「そうですか。私も映画で知ったのでね、なにも。まあ縁があったら何処かで会えるんじゃないですか」
私は古書店を出てクルマを停めてある食堂の駐車場へ。 クルマに買った画集を置いてもう少し、歩いて街から出てみようと思った。
もしかしたら、アヤさんたちに会えるんじゃないかと。
前に来た時は、ツアーバスで、福泉寺やらかっぱ淵、五百羅漢とか行ったが、そういうトコからは、はずれたトコを見ようと歩いた。
街外れのある一軒の家の前まで来たら、婆さんが何やらぶつぶつと独り言を言ってるのを見た。
そのお婆さんの言葉が聞こえた。
「じゃあな。一反姐さん。続きは明日だ」
と、空を見た。
私もつられて空を見て、驚いた。
「アレが一反姐さん!」
私の声にお婆さんはすたすたと足早に行ってしまった。
一反姐さんらしきモノはスッと飛んでいってしまった。
本物の妖怪を見た。
もしかしたらあのお婆さん。
河ババァ。
つづく




