訪問者
2話 訪問者
静ちゃんと小豆ソフトクリームを食べていると。
「すみません、ここへ行きたいんですけど」
若い男が、住所書いた紙を私達に見せた。
男はリュックを背負った旅行者らしい。
チェックのシャツにジーンズ。
メガネをかけていて、東京に行った時に秋葉原で多く見たファションだ。
妖怪の里、遠野に来た妖怪オタクさんかな。
若いのは、わかるが年令がわかりにくい。
十代にも見えるし三十代にも見える。
「ああ! ここは、もしかして。マカさんチだよ」
と、わたしに紙切れを渡した静ちゃんは、前の男を上から下まで見て。
「あんた、東京から来た編集さん?!」
まえにも原稿が遅れて編集部の担当さんが来たと言っていたけど。また?
「あの、ボクは千葉の柏市から来ました。編集では、ありません。その場所、知っているんですか?」
「じゃ、あんた何者。千葉から来たって。ココへナニしに行くの?!」
「ココに草双紙さんと綾樫さんという人が居ると聞いて。ボク、ちょっと方向音痴なとこあって、住所見ただけじゃ、中々たどり着けないんです……」
「ねぇあんたスマホ持ってる」
「はい」
「あら、いいの持ってるわね。コレ、アイホン?」
「はあ……」
「こんなの持ってるなら、ナビ使って行けば」
「ああ、そうか!」
「あんた、あのね……バカなの」
「かもしれません……」
男は赤くなって頭をかいてる。
「で、千葉から来てさっき言った二人になんの用かしら」
「話を聞きまして、あの知り合いに。あ、あのあなた、誰かに似てるって言われません? キレイな人に」
「なによ、急に? あなたの知り合いって誰?」
「あ、どうしよう。名前出していいかな……。あの先生です」
「先生じゃわかりません」
「あの、ところでなんでボクは見ず知らずのあなたに、そこまで言わないと……」
「あ〜そうね、あんたの素性が知りたいの。なぜかわかる?!」
「わかりません……」
「あたしが草双紙で、こっちが綾樫だから」
「ええ、そうなんですか! あなたやっぱり、映画に出ていた静さん! ボク。ファンです。映画と違いメイクしてなかったので……」
あのもじもじ男が急変した。ちなみに静ちゃんの役者名は静ひと文字。
「はい、言います。先生とは妖田開先生です。ボクは先生のアシスタントやってました橘九十九といいます」
あの「二面少女アヤカ」の妖田開先生のアシスタント……だった。タチバナ・ツクモ。変な名前。ペンネームかな。
「だったの」
「はい、先生……『アヤカ』の放送が、終わってから仕事が減りはじめて、アシスタントを全員解雇したんです」
「そうなの……先生も大変ですね。漫画がアニメになったのに」
「綾樫さんですね、あなたも映画に出てましたよね」
「チラッとね。わかるの?」
「百回は見てますから。映画」
「そのわりにあたしらを見てすぐにわからなかったよね」
「すみません。メイクのせいで」
「わたし……すっぴんだから」
「映画じゃお水の厚化粧だったけど……あんたあっちが好みなんじゃない?!」
「いえ、先生から話を聞きまして、本物はあんなケバくないと……」
仕事を失くした橘九十九君は、時間が出来たので、あこがれの静ちゃんに会いに遠野に。
はるばる千葉から来たと。
時間的にマカさんは本屋の方だから。留守中に男を連れ込んだら。
あ、言い方が悪い。
また、怒るだろうと、この売店のベンチで長話を。
「あの、コレボクが描いた静さんです」
と、バネルにした絵をリュックから出した。
絵は映画の1シーンで髪が舞い上がる静ちゃんだ。ちょっと目が大きくて漫画風だ。
「へえぇコレあたし……漫画みたいな絵ね。コレくれるの」
「もらっていただければ」
「もらうわ。家に飾る」
「どっち? 空き家、マカさんチ」
「あそこのコンビニでコピーして、両方に飾るわアヤ」
「あの出来ればコレにサイン下さい」
橘九十九はシャツのボタンを外して下のTシャツを見せた。Tシャツにはあの絵がプリントされてた。
日も伸びた四月の中旬、暖かくなってきた。
夕方になり。
わたしたちは売店のベンチから立とうとした時に。
「あ、アレは姐御たちだ!」
つづく