軽井沢で
12話 軽井沢で
「おーいマカ」
窓を叩いてるのは一反姐さんか。
オレは鍵をあけ窓をあけた。
「マカ。東京まで、行ってきたぞ」
「速いな姐さん。が、ヤツらは東京には居ない。メールが返って来たんだ」
「で、アイツらドコに?」
「簡単なメールだ。“軽井沢に居る”だけだ。いつ帰ると送ったが返事はない」
「まえ話の様子から、また食べ歩くんだろうよ。軽井沢か……マカ、あそこはナニが美味い?」
「実はオレ、行ったことないんだ」
軽井沢の某ホテル。
「小諸そばなら、何処でも食えるぞ」
「そうなの」
「私、秋葉原で食べた」
「マジですか、金沢さん」
「東京は、日本中、いや世界中の料理が食べれるよ。東京駅には日本中のお土産が売ってるから行ったフリも出来るわ」
「あんたたち、そういう観光本作ってるんだよね。くわしいわ。どこかおすすめってある?」
「まあ今回もそんな取材なんで、忙しいから。一緒まわれないんだ。ゴメンね、徒歩だとそんなに色んな所行けないでしょ。まあシーズン前で、開いてない店もあるけど町中楽しんで来て、夜にまたココに来て、素泊まり代くらいなら出してあげるから」
なんて、良い人たちなんだ。まえの時からいろいろお世話になってるし。そのうちなんかお返ししなくちゃね。
とか、話しながら静ちゃんと町中の歩道を歩く。
「軽井沢と言っても商店街はあるんだな。森の中に別荘がてんてんとあるイメージしかなかったから。スーパーもコンビニもある」
「でも、やっぱり田舎だからか、どこからか妖気が漂ってるの感じない……」
「ああ……向こうの林の方からも」
「行ってみる?」
「やめとこ、こんなトコまで来て妖怪と関わると、ろくなことがない。あ〜もう遅い、向こうから来たわ」
林の方から来たのは黒塗りの高級車。何処かで見たクルマだ。
クルマはわたしたちの前で停まった。
ゆっくりおりる窓ガラス。
サングラスの女の顔が。
金髪のショート。
「今度は軽井沢。早かったわね」
「濡れ女……」
「その名はやめて、二口さん」
「えーと、クララ」
「ウララよ、憶えて柳行李麗」
「あんたはココでナニをしてるの?」
「此処に別荘があるのよ。今の実家は福島だけどね」
「別荘。いい身分だなぁ」
「まあ、あんたたちみたいな貧乏旅行とは違うわよ。あなたたち、お昼はまだでしょ。ご馳走してあげるわ、お乗りなさい」
濡れ女さんの別荘でお昼ご飯をご馳走になり、会った所まで送ってくれた。
「アレが蛇体の醜女妖怪だったんだからな。時代は変わったよ。ハンバーグランチ、美味かったなぁ」
「クルマに載せてくれたり、ご飯をご馳走してくれたりいい人……いい妖怪じゃないの濡れ女さん」
「昔はあたいが美人妖怪で……」
「自分で言うか」
「醜女、ホントのコトだ。美人で、モテモテで羽振りも良かったから、貧乏妖怪のヤツにいろいろしてやったんだ。まあ悪いヤツじゃないけど、あいつ貧乏旅行しているあたしを見て、今のリッチな自分を見せたいのよ」
「静ちゃんは、昔はどんだけ羽振りが良かったの?」
「歩かずに籠で出かけてた……」
「へえぇ〜そうだったんだ」
「でも、今の生活も楽しい……」
と、静ちゃんは遠い目をした。
静ちゃんが東京を出て遠野に来た理由は聞いたことはないし。聞かない。
それでいいと思ってる。
「あっ、静さんだ!」
つづく




