日本海見てない
10話 日本海見てない
金沢さんたちのクルマで新潟県境を超えた。
「あのぉ長野行くと、日本海から離れるよね」
「いいじゃん、海見てもつまらないし」
「あら、あなたたち新潟で日本海見てないの」
「夜中について、夜が明けて桜まつり見てたら、あんたたちに会ったから。まあ日本海が目的で来たわけじゃないから」
「そうなの、ねえあんたたち寝たの。何処かで夜明かししたの?」
「ああタヌキに宿教えてもらって」
「タヌキ?!」
「タヌキに似たオジさんです。目の周り黒くて、お腹出たオジさん。だから静ちゃんタヌキって」
「そうでっかい玉袋下げてた……」
「玉袋……」
「あ、冗談だから」
「まえは東京だったわね。目的地。今回は?」
静ちゃんはわたしの顔を見た。
最初の目的地新潟は出た。次は何処にしよう。なにも考えてなかった。
長野か。
「松本城見に」
「城見てもつまんないよぉ……軽井沢行こうアヤ」
「あら、目的地があるわけじゃないの」
金沢さんだ。
いつも運転は彼女だけど天野さんはしないの。
「いや最終的には、また東京へ行こうと。でも、今回は周りを攻めてから」
そういうつもりだったの。
「なるほど、それで新潟に。で、次は長野でもいいのかしら? 私らは軽井沢で一泊したら埼玉へ帰るけど。松本で降りる? 栃木、群馬はいいの?」
「そうだよ、どうせなら栃木と群馬も行こう。静ちゃん」
「だな、とりあえず。軽井沢行こうかアヤ。小諸そば食べたいし」
「あのさ、話変わるけど。聞きたいことあるんだ。静さ、映画に出てなかった? オバケの役で」
あの妖怪映画、見たんだ。天野さん。
「ケバい化粧してたから金沢さんは似てるだけだって。でも、パンフ見たら俳優名が『静』って」
「でも、東京の某モデル事務所所属のモデルだって、書いてあったわ。静ちゃんは遠野で働いているんでしょ」
金沢さんは別人と。
「やっぱり、わかりました。そうよ、あのオバケはあたしです」
「ホラ、やっぱり。今夜の夕食ゲット! 金沢さ〜ん」
「東京で知り会ったモデル事務所の社長に出ないかとオーディションに行かされたら、うかっちゃたのよね」
「ホントは最後の百鬼夜行シーンのオバケオーディションだったんだけど、なぜかああなったの。ああ、最後のシーンにアヤも出てるよ」
「わたしのシーンはボケてて判別できません」
「そうなのDVD買って観てみようかしら。静のシーン。ホント、あの後ろの口でご飯食べるシーンはCGでしょ。リアルだったよね本物に見えたわ」
「ホントね、最近はCGで何でも撮れちゃうものね。でも、最後の百鬼夜行のシーンに何匹か本物混じってたりして」
金沢さんあたりです。けど、みんな本物です。
あの映画が公開されて、あの二口女役のモデル俳優は誰と問い合わせが多かったと聞いたけど。
あれ以上出て有名になると何かと面倒だと妖怪俳優さんたちに言われたから。他の仕事は受けなかった静ちゃんだ。
でも、あの漫画家の元アシスタントなんかにも簡単にバラしてた。
ホントは有名になりたいのかしら。静ちゃん。
妖怪では有名な二口女。
それでいいと思うけど。
「けっこう周りの人たちにも評判が良かったけど、他の仕事とかきたんじゃないの」
あたりです。金沢さん。
「事務所に、きたらしいけど。辞めたからと、みんな断ったって」
「あら、もったいない」
「あまり、あーゆー仕事したくないの。自由きままにひっそりと暮らしたいのよ。こんな旅も出来ないでしょ」
「たしかに。『あの女優がヒッチハイク旅』なんてぇ週刊誌やネットニュースに出て、大騒ぎになるかもね。わかるわ。今の方が楽しそうだものね。でも、もったいない気も。静なら人気女優になったわ」
つづく




