プロローグ
異世界転生。
そんな言葉に胸をときめかせていたのはいつのことだろうか
現実世界に嫌気が差し逃避ばかりしていたあの頃。いつも思っていた。
漫画やアニメ、小説のように自分もある日突然異世界に行くことができたらいいのに。そしてチート能力で無双しまくり周囲から持て囃されるのだ。
そんな馬鹿げたことを考えていた。自分でもこの考えを馬鹿げているとは思っていた。
なにせこんなことを考えていたってレポートの締切は伸びたりしないのだから。
閉館時間が迫っている大学図書館で俺は自習スペース一番端の席で伸びていた。
「何も思いつかん.....。」
厄介な西洋史のレポートの締切は明後日。それにも関わらずレポートの進捗は最悪だった。
何かこの状況を打破できるような面白い資料は転がっていないかと先週から図書館へ通い詰め粘ってはいたが生憎とそんなものはかんたんに見つからなかった。
あと十数分で閉館だ。半ば諦めモードに突入しつつ最後のあがきとばかりに本棚からいくつか持ってかえる本を見繕った。
これは今日も完全徹夜読書コースだ。寝られやしないと思いながら脚立に足をかけた。
ふと、一番上の棚に見たことの無い黒革の装丁の本を見つけた。結構古そうだ
「こんな本あったか?」
もちろん誰も返事はしない。高いところにあったとはいえハードカバー本の群れの中にこんな目立つ本があるなんて今までずっと気が付かなかった。
興味本位だ、どうせ読む時間も余裕もありはしないだろう。だが借りていこうと思った。
右手には先程見繕った本が数冊、そして脚立の上。そんな状態だったのにも関わらず少し背伸びして左手だけでその本を引き抜こうとした。
「結構重いな、あ。」
結果としてどうなったか。惨めにもバランスを崩して脚立から落ちた。
あ、ヤベーなこれ後頭部強打するやつだわなんて考えながら転倒しそして予想通り頭を強く打った。
意識を失った。
意識が戻ると自分が両足で立っていることに気がついた。
さっと後頭部に手を当てたが別に痛みはなかった。が、それにしても
「なんじゃこりゃ.....」
自分の両サイドには露店が、足をつけている地面は石畳、目線のずっと先にはオレンジの屋根をしたゴシックチックな教会っぽい建物。
そして喧騒の中を行き交う人々の服装は現代日本のそれとは思えず、顔もまた西洋諸国のそれである。というか何人かヒトじゃない人もいらっしゃるような気がする
極めつけには露店の客引きの声である。
「安いよ安いよ!退魔の護符が銅貨たったの30枚!」
「いらっしゃい!そこのお兄さん、剣士ならこの魔法の砥石を買ってくといいぜ!」
「獣人族の旦那!良いマタタビ酒が入ってるぜ!」
最初は「あ、これ夢だな。頭を強く打ったせいだよな」などと考えていたが頬をつねるとたしかに痛い。まさかこんなベタな方法で自分が正気なのか確認できるとは思ってはいなかったが
「これ異世界転生っすよね」
少なくとも現実のようだ。