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もしこの世界の問いすべてに答えられたら。

作者: 大國魂太陽

「渡辺愛」

彼はこの世の問い全てに答えられる力を持つ。

超能力が存在しない2022年の現実世界で。

――コロンブスが幸福であったのは、

   彼がアメリカを発見したときではなく

   発見しつつあったときである。

 

   幸福とは生活の絶え間ない探求にあるのであって

       断じて発見にあるのではない――――

                 ドストエフスキー




――――――――――――――――――――――――――――

*第一章*

「あなたは私の欲しい時に欲しい言葉をくれるんだね」

――――――――――――――――――――――――――――


「……もしもし」

涙声でLINEに出る女の子。


「どうした、何かあったのか?」

「ううん、別に。どうしたの」

「別にってことはないだろ。

   さっきまで飲んでて、確かお前ん家この辺じゃなかったかなって」

「……ねぇ、ちょっと時間ある」


偶然電話をかけたら好きな子が泣いていて……

話があると家へ招かれる、

なんてことはTwitterからのDMで可愛い女の子からの連絡がくることくらいありえない。

もちろん、偶然を装って俺は「泣いている」彼女に電話をかけた。

なぜ分かったかって、それは彼女の”行動履歴”だ。


#立ち直る方法

#泣き歌

#西野カナ


彼女がここ10分で検索していたワードだ。




「どうぞ……」

「お邪魔します」

月8.5万の部屋だ。彼女の年収からして決して高いほうではなく、

もともと高望みするタイプの性格でない答え合わせができた。

3月中旬、両隣と下の部屋が空いているのは当然知っている。

まとめて入居した学生たちが卒業して引っ越しを終えているのだ。

低めのテーブルを前に腰を落とす。


「何か悲しいことでもあったのか?」

「うん、昨日ね……」




彼女、鈴木あおいの彼氏は大手広告代理店「言通」の若手エースだ。

先輩社員から引き継いだ案件で軌道に乗り、

3年目を終える今、

すでにパンパンの肩パッドをさらに誇張して、

ブルーのスーツで自信満々に出世街道を歩んでいる。

25歳にして年収は1000万円近く、あまつさえ一人の夜を知らないプレイボーイだ。


「この前さ、使ってくださいって音楽YouTuberの阿木ちゃんが来てさ、

   試しにカラオケ行ったんだけど、セミアマでも十分うまかったんだよ」

「阿木ちゃんってあの五反田路上出身のシンガーでしょ?

   すごいね、自分で営業にも出てるんだね」


長く付き合っている二人は、カフェ巡りのデートをしていた。


「自分からアピールしないとみてもらえないって辛いよなぁ~。

   お……この辺で初めて見る広告じゃん」

「あ、それね!実は!」


「パッとしない広告だな。

   いかにも低予算で作りましたって雰囲気が出ていて

     コンセプトも伝わってこないし、あんま参考になんないな」

「……」

バス停に掲載された広告を評価する男。

一瞥にしか値しないとすぐさま目を離す。



「その翌日ね、彼が他の女の子と二人で温泉に行っているをみてね、

   その話をしたら私の手料理、趣味、話の内容さんざん悪口いわれて

     結局別れちゃったんだ……笑えるよね」


……そんなことは知っている。

その女の子は駆け出しアイドルの営業で彼と関係を持ち、

次の社内プレゼンで彼女を提案する予定だということも。

君が飲み倒れる彼を気遣って3年前から健康的な手料理を選んでいたことも。

自分で学費を払っていたからお金のかからない趣味を持っていたことも。

バカにされた広告が、君の初めてプロデュースした企画だということも。

俺は知っていた。


「そうだったんだ。何だか、悔しいな。

   俺は広告とか詳しくないから分からないけど、


   最近見た広告で忘れられないモノがあったんだ。

   サプリメントのポスターで、

   遠くから見るとずっと一緒にいたい相手だから、

   ずっと健康でいてほしい、プレゼント用のサプリみたいでさ。

   

   近くでは分からないのに離れて見ると見え方が変わってさ!

   その人が送っているのは単なる栄養サプリではなくて

   健康を思う優しさなんだって考える広告だったんだわ。

   

   こういう広告を作れる人って

   誰かのために、が先に来る、優しすぎちゃう人なんだろうね。

   俺はそれを思い出したんだけど、

   あおいの優しさが彼に気付かれなかったのはなんか悔……」


言い切る前に、彼女は泣いていた。

何も言わず、俺はただ、彼女を見守った。




野菜と味噌のほのかな香りに目を覚ます。

お酒も進んで泣きじゃくられて、終電を逃した俺は床で寝ていた。

「あ、起きた?せっかくだから朝ごはんたべてよ」


そういって用意してもらったのは、

ごま油の入った味噌汁と、スパニッシュ風オムレツ、そして


「たこさんウインナーだ」


「そう、私これ好きなんだ。あとよかったらこれも飲んでみてよ」

そういって一口分の野菜スムージーを渡される。


「美味しい!この量なら普段意識していない人も

 お代わりしたくなるくらいに飲みたくなるよ!

 あれ、これ、もしかして昨日話した広告のサプリ……?」


「うん、実は私もその広告みて買っちゃってたんだ!」


「すごい偶然!笑 こんなに美味しんだね……」

初めて飲んだその商品に対する、紛れもない俺の感想だった。


        ・

        ・

        ・


「じゃあお邪魔しました」

「ううん、朝まで付き合わせてごめんね」

「電話かけたのはこっちのほうだよ。じゃ。

   ……たまには、自分にも優しくしてあげるんだよ」

最後に軽く微笑むと、俺はドアをゆっくりと閉める。



「あなたは私の欲しい時に欲しい言葉をくれるんだね」

二つの考えが大きくあるでしょう。

「渡辺愛」の行動はストーカーっぽい。

いいや、知らずして自分を助けてくれるならそれは努力だ、と。


「まだ始まったばかり」

そう思って彼が悪者なのか、気持ち悪い人なのか、決めてもらえたらなと。

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