7 サリバン辺境伯家の会議
「……こんなに」
私はそれだけを言うのが精一杯でした。
お父様の執務室に運ばれたドレスの数は優に10着を超え、それぞれ違うパーティーに着て行った物。イヴニングドレスを普段着やお茶会に着ていくことはありませんから、全て夜会での出来事……。
だとすれば、ローズはお父様やお母様同伴の夜会で、少なくとも、これだけの数の男性と関係を持ったことになります。
社交シーズン以外は領に帰って来ているお父様とお母様……2人の目の無い所では、果たしてどこまで、何をしているのか……。
「……ローズを連れ戻し、以後館から出す事を禁ずるか……」
「旦那様。ローズはまだ若いのです、……いえ、成人しているのだから分別もつくだろうと思っていた私が甘かったので、強くは言えませんが……」
お父様もお母様も顔を曇らせてローズの今後を話しています。私は……余りのことに口を挟む余裕もありません。
ローズは、ローズ・サリバンとして社交界にデビューし活動しています。いわばサリバン辺境伯家の看板を首から下げているのです。
嫁の貰い手は……残念ながら難しいのでは無いでしょうか。私が出ていき、外から辺境伯として後を継いでくれる誰かをローズの婿としてもらう、……その婿殿の為にローズは一生監視をつける。その位の事は必要かもしれません。
私の……、私の領を豊かにしていきたい、サリバン領を盛り立てていきたい、そんな目標は封じ込めても……これ以上ローズに好き勝手させる訳にはいきません。
領主が侮られればこれまで友好的な関係を築いてきた近隣の領からの風当たりが強くなることも考えられます。それどころか、下手をすれば辺境伯としてのお父様の能力まで……娘一人管理できないと、国王陛下からまで疑われかねません。
辺境伯とは国境沿いの領土を任されるだけある、国王に近い権力を持った存在です。いわば一国の姫が男漁りをしているようなもの……、諸外国にまで話が広がれば侮られ、攻め入られる可能性もあります。なんと御し易い娘を持っているんだ、と。
そうすれば領を豊かにしていくどころではなくなります。我が家は爵位を下げられ小さな国営地を運営する事にも……そうなれば、今この館で働いている官僚の待遇なども問題になります。
まだ嫁入り前の、成人したばかりの娘一つの行動とはいえ、それが貴族……それも辺境伯の娘ともなれば、私ですらこの位の危惧をします。お父様とお母様はもっと危機感を覚えているはずです。監督不行届なのは覆らない事実ですから。
「次に王都に戻るまでは仕事が詰まっている……、ダリア、先に戻ってローズを王都の屋敷から出られないようにしてくれるか?」
「畏まりました、旦那様。えぇ、お茶会の一つにも行かせませんとも……」
「一先ずはそれで対処するとして……、かといって社交を疎かにする訳にもいくまい。噂が鎮火するのを待って見合い相手を探すしか無いだろうが、正確な情報が必要だ。……リリー」
「分かっております。……正直はらわたが煮えくりかえりますが、全て領のためと思えば」
「すまない。お前に領を継がせられるようなるべく手を打つ。ダリアと共に王都に行き、どこまでローズの……そして我が家の醜聞が広がっているか確かめてくれ。出来るならば鎮火も。私も別方面から手を打つが、社交界での情報収集ともなると……はぁ、頭が痛い。ダリアに本来は任せるべきだが、ローズから目を離す事はできない」
私は苦笑してしまいました。ローズは私の言う事など聞きません。お母様やお父様の言う事も聞くか怪しい所ですが、私よりは効果があるでしょう。
まして、お母様はなんだかんだといって社交界では一目置かれています。娘2人を産んでも衰えない美貌に豊富な知識と教養、流行をつくる側の人(辺境伯領は隣国との輸出入の窓口でもあり、サリバン家の事業として国境になっている山脈に金鉱や宝石の採掘場を持っているのです)。そういった点からも、辺境伯夫人という点からも、王族の方……皇后様や王妃様とも親しい交流があるのです。まさに、本物の社交界の花……ローズはそんなお母様を敵に回したくはないでしょう。
しかし、事件は次の日の朝起こりました。




