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5 ローズの失態

 私は口を抑えたまま、なんとか昼食を吐き戻さずに済んだ。


 お父様とお母様は、知らない。この反応は知ってる物では無い。今私が教えないと、取り返しがつかない事になる。


 隣国との国境を守る辺境伯という誇り高い地位にある貴族の娘が、夜会で見知らぬ男と肉体関係を持っている。そんなのスキャンダル以外の何物でもない。


「お父様、お母様……、お願いします、まずは人払いを……」


 私は投げ捨てたドレスの汚れを自分の体で隠すようにして持ち、呆然とした、そして今にも泣きそうな顔で頼りなく両親を見た。


 何かを察知したお父様が部屋から使用人に出て行くように告げ、良いと言うまで入ってこないようにした。いつもにこにこ笑っているお母様が表情を消した。


「これを……」


 3人になってから、私は震える手で両親にドレスの汚れを見せる。最初は何か分からなかったようだが、直ぐに事態を理解したお父様の顔は怒りと恥辱に歪み、お母様は余りにはしたない事の証拠を見て唖然とした。


 ローズが王都に行って2年。その間、多くても3度袖を通しただけのドレスは影干しされる事はあっても生地が傷むので洗われることは無く、私の元へ送られてきている。


 さすがに着る前には丁寧に洗わせてから袖を通して仕立屋にサイズや多少のデザインを直してもらっていたが、そんなのはごく一部、客間に詰められたドレスは送られてきたそのままだ。


「今すぐこの屋敷で一番信用のおける侍女を2人呼べ、リリー」


「……かしこまりました、お父様」


 1着に付いていたのなら、まだあるかもしれない。何せ、妹のおさがりのドレスは、一部屋占領する程私にさげられているのだから。


 私が一番信用している、執務室と私の寝室に出入りする侍女は決まっている。


 ハンナとミア、この屋敷の使用人同士の間で生まれ、幼い頃に同じ基礎教育を受け、侍女として仕えてくれている2人。


 私はお父様とお母様に話した事で一応の落ち着きを取り戻し、部屋の入り口を開けると、ハンナとミアを呼ぶように言った。


 2人はすぐに駆けつけてくれた。


「今までローズから送られた服、その中でリリーが袖を通していない物を全て調べろ。汚れている物が有れば寄り分けておくように。この仕事は何より最優先され、かつ、内容の口外を禁ずる。……何の汚れかはお前たちにもわかるはずだ、それを……見つけた物は全て布をかけて今夜私の執務室へ運んでくるように。……ダリア」


「分かっていますわ、旦那様。えぇ、すべて覚えていますよ、ローズがいつ、どこに、どれを着て行ったか……お任せくださいませ」


 ハンナとミアは不思議そうな顔で厳命を聞いていたが、お父様が先ほどの汚れを見せると全てを理解した。


 顔色を失くす。当たり前だ、まだ17歳になる前の、婚約者の居ない淑女のドレスに、こんな汚れがついていてはいけないのだ。


「かしこまりました、旦那様」


「一つ残らず検品し、見つけたものは内密にお持ちします」


 そう言ってハンナとミアは礼をすると、慌ただしく衣装部屋へ向かった。


 私は頭を抱えて、真っ白になった頭の中に、どうすべきか、という問いを投げかけていた。

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