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18 続く密会

 レイノルズ様は月のある夜には必ず私の部屋を訪れた。私は晴れた日の新月の夜以外には、こっそりと台所に忍び込み、2人分のお茶を用意するようになった。


 ローズとレイノルズ様はまだ交際を続けている。ローズからレイノルズ様に話をしたそうで、レイノルズ様は騙すような真似をしてすまなかったと誠心誠意謝ってくださったとか。ローズは自分が、サリバンの家が助けられた事も、己の事を見直して私と仲直りできたことも、全てレイノルズ様のお陰だからと言ってお礼を言ったそう。


 そして、2人はお互いの気持ち……ローズは誰かに、家族に、自分を見てもらいたかったという気持ちをレイノルズ様に気付かせて貰って恋では無かったと。そしてレイノルズ様は……。とにかく、2人は合意の上で清い交際を続けている。


「リリー?」


「どうぞ、レイ」


 私の事を呼び捨てになさるようになったのは、いつからだったろうか。レイノルズ様の事を、レイと呼ぶようになったのは。


 いつも夜闇に紛れる黒のシャツとズボンを身につけ、難なく木を登って現れる彼は、窓を開けると中に滑り込むようにして入ってきた。


 目立たないようにローテーブルの上に蝋燭を灯し、私たちは並んでソファに座る。その距離は日に日に近くなり、彼は私の気持ち……、ローズと交際している間は決して口にはしないけれど、それを知っていて距離を詰めてきた。


 まず、髪を指にとって口付ける。それだけでもまだ恥ずかしいというのに、何がそんなに楽しいのか私の赤く染まった頰を撫で、そっと指を絡めて手を握る。


 そこでようやく落ち着いて茶器を手に取る。私に触れていないと我慢できないとでもいうかのようであり、私に触れていい限界をいつも探っている。


 私の気持ちは知っていても、私が応えない限りは口付けはしない。もちろんそれ以上も。それでも熱の篭った視線は明確で、私はそれを受けて、そっと肩に頭を乗せる。彼の唇が髪に落ちてくる、この心地よさを知ってしまったから。


「建国祭は、ローズのエスコートを?」


「いや、ローズを陥れた男が分かったからな。その証拠を連れてくるために、私と兄は後で会場に入ります。……貴女たちを守る助っ人も呼んであるので、ご心配なく」


 建国祭。すべての貴族諸侯の集まる場所で、ローズの過ちを精算するつもりだ。


 私はそれを思うとほっとして、そして少しだけ気が重い。ローズのした事が明るみに出る。しかし、このまま燻らせておくよりは、一気に燃やしてしまった方がいい。


 お父様も人を使って方々手を回し、ローズに手を出した男たちの一覧はすでに手に入れている。爵位の高い貴族の子息たちが、そろいもそろってよくもまぁ、と思ったものだ。


 彼らの家には内々に手を回し、サリバン辺境伯を敵に回す覚悟が無ければ……未婚の女をベッドに連れ込んだ事を触れ回られたくなければ。それは貴族の子息にとっても恥である、中には婚約者がいる方もいた……全て胸の内にしまっておくようにと、話はついている。


「リリー。心配しているのか? 大丈夫、全てうまくいく。……必ず、君の大事なサリバン辺境伯領と、大事な妹を守るよ」


「レイ……、ありがとう。大丈夫、私もきっと、ローズを守るわ」


「頼もしいね。当日の君の晴れ姿を、とても楽しみにしている。いつもその、寝巻きだから……着飾った君と話すのは最初に出会った時以来だ」


「そうね、……よく考えたら恥ずかしいわ。今は薄暗いからいいけれど……、どうか覚えておくならば、着飾った私の姿にして欲しいわ」


「君はどんな姿でも美しいよ。外見だけじゃない、内面も」


「だめよ。私、せっかく素敵なドレスのデザインを見せて貰ったのに違いが分からなかったの。ローズが呆れながらとっても素敵なものを選んでくれたのよ、レイ」


 声を潜めながら、私たちは暫く寄り添ったまま歓談した。レイの気持ちを疑う事は無い。ローズとの仮初の交際も、ローズから聞く限り友人同士のようだった。共通の話題である私のことが多いようだ。


 私もいつか、この騒ぎが収まったらレイと陽の光の下、お洒落をして出掛けることができるかしら。


 太陽の下で、レイの金の瞳が見たい。


 余り夜更けになる前に、レイは去っていった。私は今日も、彼が無事門を出るまでその姿を見送って、茶器をこっそりと片付け、布団に入る。

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