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10 ローズ・サリバンの恋人(※レイノルズ視点)

 彼女……花姫・ローズと呼ばれていたローズ・サリバンは、あっさりと私との交際を了承した。


 今まで身体を求められる事ばかりだったのだろう。それを自覚していながらも、彼女は求められるという事に対して貪欲だった。


 そのせいであんな事に、と、交際を始めみて納得した。


「私以外の男を見ないでくれ」


「ローズの全ては私だけが知っていたい」


 そう囁くだけで、元々美しい容貌はしていたが、花が綻ぶように微笑んで頷く。男たちが群がるわけだ、と納得もしたし、彼女はそうして言葉と態度で私が彼女だけを求めていると示せば同じように、身持ちが固くなった。


 花姫、などと揶揄する言葉はもうどこからも聞こえない。今ではレイノルズ・モリガンによって真実の愛に目覚めた、と噂されるようになっている。


 ひとまずこれで、サリバン辺境伯家の評判の悪化は食い止められた。


 むしろ、ローズは献身的でありながら、淑女としての教養、教育は見事なものであり、更にはサリバン辺境伯夫人の血を継いでいると言われるほど社交界の女性に憧れられる存在になっていた。


 モリガン侯爵家の名を恐れて男たちの噂はピタリと止み、中にはローズに恋い焦がれる……私と違って、心から……者も現れ始めた。


 そろそろ手放しても良い頃だろうか、などと不穏な事を考えてもみるが、果たしてそうなればローズはまた逆戻りするだろう。私ほど熱心に、彼女に愛を囁いた者はいない。身体を求めず、ローズという女性の素晴らしさを讃えた男もいないだろう。


 確かに見た目は重要だ。相手にどんな印象を与えるか、それは最初の見た目や表情で変わってくる。


 ローズは変わった。最初は男を見定める目をして、他の令嬢を見下していた彼女は、私の愛の言葉で変化し、今では素晴らしい淑女であると言い切れる。


 これならば、最初の社交界デビューから1年の間に広まった悪評もすぐに忘れ去られる事だろう。噂は止まっても、まだ皆の心にローズの奔放だった頃の姿は記憶に新しい。


 夢中にさせておかなければ。ローズとは腕を組む以上の事はしていない。抱擁の一つも、もちろん口付けも。


 私の心にはいつも、凛と前を見定める美しい灰色の瞳が棲んでいる。


 ローズ。君は美しい。私はリリーの妹である君に幸せになって欲しいと心から思う。だが、私は君を心から愛してはいない。欲してもいない。騙しているんだ。


 段々と心苦しくなってくる。ローズの一身に向けてくれる愛情、私に恥をかかせないように振る舞う豹変ぶり、本来は性質のいい女性なのだろう。


 彼女に足りなかったのは、彼女だけに向けられる愛情だ。それさえあれば、彼女はこんなにも素晴らしい女性である。


 そんな女性を騙している事に罪悪感がある事は否めない。私の心にはいつもリリーがいて、愛の言葉の全ては心の中でリリーへ向けている。最低の男だろう。本当に、人生における汚点となってしまった。自分で自分が許せない、という意味で。


 しかし、本当にローズを愛する者が現れるまで、私はこの茶番を辞める事は許されない。始めた事はやり遂げなければいけない。今ここで彼女を突き放せば、必ずローズは地に落ちる。


 そんな折だった。私の兄であるリチャードが……つまり、モリガン侯爵家の次期当主であり、現在王立騎士団の分隊長を任されている……彼が言い出したのは。


「レイノルズ……、私はお前の恋人であると知りながら、ローズ・サリバン嬢へ懸想している。兄として恥ずかしい事だが、あんなに素晴らしい女性だとは知らなかった……。譲れ、などとは言わない。ただ、恋人であり弟であるお前に言わないでいるのは、余りにフェアでは無い……、すまない、レイノルズ」


「兄上……」


 これはチャンスでは無いだろうか?


 ローズ。君は素晴らしい女性だ。今では君を妻にしたいと思う男がどれだけいるか、きっと私しか見えていない君は知らないだろう。


 私は兄に本当の事を告げるか迷った。しかし、そうすれば兄は私に決闘を申し込むだろう。命を賭けた、正当なる決闘だ。そして私は兄に勝てる程の力量では無い。つまり、命を落とす。


 それは避けたい。私が望むのは、ずっと望んでいるのは、リリーの将来を、リリーの心を、リリーを守る事だけだ。


 病的なまでにリリーに恋をしている私は、いかにして誠実で公明正大であり、侯爵家当主として申し分のない兄とローズを引き合わせ、婚約させるか……それを真剣に考えた。


 例えば、そう、私の命は捧げられずとも、腕の一本を差し出す事で丸く治るのなら、と。

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― 新着の感想 ―
[一言] おぉ〜… なんだか、こっちも兄弟で… なんだか、周りもスゴい…!ww
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