休日登校?
「早く来なさいよ!よくカメをのろまと表現するけどあんたよりはもっと機敏に動くわよ!」
現在、俺こと鮫野絞貴は、この一月海という名のアホ女に連れられて学校に向かっていた。
朝食中、ふと一月が制服を着ていることが気にかかり、それとなく尋ねてみたところ、金曜日と土曜日を勘違いしていたという発言が。そして続けて、
「違うのよ。ただ休みの日のうちに告白スポットでも探しておこうと思っていただけよ!」
と、苦し紛れに言い、俺の静かな休日を無理矢理奪って、制服に着替えさせて現在に至る。
「おい一月。別に場所選びなんて週明けでもいいだろ。それに丁度二週間後には誰かが図ったように常設されちまったバレンタインデーとかいう日があるじゃねえか。その日に合わせればいいんじゃないか?江口はチョコを貰えたら普通に嬉しがる奴だぞ。それも女子にもらったとなれば……」
「嬉しがられるだけじゃダメなの。絞貴、あんた昨日ちゃんと私の話を聞いていたの?もしその頭の片隅にも残ってないようなら、しかるべき病院を紹介してやるわよ」
「お前が行ってこい!そして告白する相手の友人に告白したって言って笑われて来い!」
「告白なんてしていないわ。ちゃんと手伝ってってお願いをしたもの。ほら、やっぱりなんにもその頭に入ってないじゃない。昨日はちゃんと寝たのかしら?」
あーぎゃー言いながら学校への坂を上る。これだけ騒いでいりゃ寒さも全く気にならない。だから背後から迫る影にも気づかなかった。
一月に誰かが飛びかかってきた!
「オッス!オラ夏織!珍しいね海が休日登校なんて……って鮫野くん!?どったの?呼び出し!?」
夏織が俺に気づくやいなや、一月の足に引っかかり、二人とも冷たいアスファルトの上に転がった。
「あいたたた……。かおりん、いきなりはやめて。いきなりは……」
「ああっ!ごめんよう。今日久しぶりに練習試合があるから気分が高揚していたよ~。あっ、オッス鮫野くん!えへへへ……」
そういってこのおてんば少女は手を頭に当て、この冬空に似合わない笑顔で挨拶をしてきた。仕方がないので二人に手を貸して引き上げてやる。
「足に怪我は……、無さそうだな」
「へへ、これはすまないねえ。でもどうして二人とも学校に行こうとしているの?今日は土曜日で休みだよ?というか珍しい組み合わせだね。仲良かったっけお二方?」
夏織はショートカットの髪やスカートについた土ぼこりを払いながらそう聞いてくるのだった。
これは何とも答えられない質問が来てしまったな。まさか告白スポットを関係ない奴と一緒に探しに来たなんて言えるはずもない。
「別に?仲がいいわけじゃないわ。そこでばったりとあったからクラスメイトとして挨拶していただけよ。ねっ、鮫野くん」
「え、ああ、おう。そうだな」
いまいち話をかわせていないようにも思えるが今はそう言っておくしかないだろう。あとで夏織に見つかっても、まあ勘違いが生まれることはない。寧ろここで会っておけてよかったのかもしれない。
対して水城はそんな俺たちを見て、ふーんと言って顎を撫でる。
「じゃあ鮫野くん。もしよかったら後で手伝ってくださいな。かおりんはバスケの試合頑張ってね」
「おうさ!じゃあね口調の変な海っ」
スタスタと一月は学校まで歩いていきやがった。口調の変なと言われている時点で気づいているのではないのか?
「ねえ、鮫野くん」
一月の姿が見えなくなると、隣の夏織が突然ひょっこりと顔を前に出して名前を呼んできた。女子に顔をこうもまじまじと見られると、頬に熱いものを感じてしまうのが男子高校生である。
「海と何を話していたのかな?あの子が普通に人と話しているなんて、ねえ……?」
純真無垢な瞳とは裏腹に、俺に対して向けられる疑問と好機の目は何とも言い難い雰囲気を出していた。
といっても俺には別に後ろめたいことなんて何一つない……はずだ。
「さっきあいつが言っていたろ?何かを手伝ってほしいんだとさ。俺はというと特にこの休日にやることなんてないから、その珍しい一月の頼みを聞いてやっていただけだ。俺はあいつのことはほとんど知らないから、なんだ、まあ深く知るにはいい機会だと思ってな」
「深く、ねえ……」
あらぬことを考えている気がする。やめろ、あいつに対してそんな感情は一切抱くことはないだろうよ。
「鮫野くんも人とはあんまり交流しないタイプだよね?さあ高校の男友達の数を言ってみな!」
「ふ、二人だが……?」
「……うんっ、やっぱりこの話はやめよう!海も人に話しかけるくらい上機嫌らしいし、まあ鮫野くん!手伝ってあげてよねっ!ではっボーイズビーアンビシャス!」
そう言った夏織という名の全自動暖房装置は、今の冬の北海道の寒さに負けない熱量を発しながら走り去っていった。もっともここは北海道ではないし、そこまで寒くなることのない地域なのだが。
一月のことを知る前に夏織への知識が更新された。