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一月海は怖がらない  作者: モノ
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嵐の前の昼食

 なんて女だ。言いたいことは言って、さらに人を壁に叩きつけるとは・・・・・・。もし俺が本当に怖い人間なら今頃どうなることやら。

 そう思いながら体に付いた汚れを払っていく。

 しかし放課後だと……?

 俺の頭は、真っ先に浮かんだ告白という文字を消去しつつ、別の理由を探し始めていた。このころになると、ようやく彼女の名前が浮かびかかるが、ああ駄目だ消えてしまう。この一年でクラスの人間の名前を覚えていなかったことを改めて気づかされる。

 何も思い浮かばないから仕方がない。放課後までに聞けるタイミングでも探すしかないか。今思い出したが、確か隣の席だったしな。



「今日の朝の怒気には凄まじいものがあったな。何かあったのか?」


 昼休み。結局隣の席の彼女には声をかけることはできなかった。休み時間になるとすぐにどこかに消えてしまうのだ。

 現在俺は廊下窓側後ろドア横の自席から離れ、外窓側一番前の江口の机に弁当を広げ、お手製のオムライスにがっついていた。

 教室内には人は少なく、あの女もいない。これは俺を避けているからではなく、単に大食堂の方が食べやすいからであろう。


「ちょっとな。今日の放課後に呼び出されただけだ」


「藤堂先生に?いい加減分かってくれればいいのにな……」


「いやあの先生じゃない。まあもう一年も終わるっていうのに未だに目を光らせてくるけどな……」


 今日の朝は確かに不機嫌な気持ちではあり、朝礼ではほとんど睨み付けるような視線を送ってしまった。自分でそう思うのだから藤堂はそれ以上のものを見ただろう。


「じゃあ誰にだ?」


 江口は他に誰が呼ぶかなと不思議に思っているようだった。


「俺の隣の女子」


 その時、江口の手から橋が滑り落ちた。ころころと机の端まで転がっていく。音がするまであと一秒。


「ついに……、ついにお前に告白するような女子生徒が現れるようになったとは……。お

前と付き合った二年と半年は楽しかった。その……、頑張れよ!」


江口は目頭を押さえて涙をぬぐう。


「いや待て、ちゃんと話を聞けって。いいか?多分これは告白なんかじゃない。どっちかと言うと果たし状とかを渡されそうな雰囲気だった。実際、俺はトイレの壁に叩きつけられたんだからな?どういう教育をしたらあんなことを人にできるんだ」


「ほう。鮫野、お前をか?それはなかなかやるな。因みにお相手は誰と言っていたっけ?」


 丁度ケチャップライスでいっぱいになった口を開く代わりに、スプーンで自分の席の横を指した。

 すると江口は少しだけ真顔になり、


「一月が……?」


 そうつぶやいたがすぐにいつものツラに戻った。


「へえ。だから授業中、鮫野はずっと若干体を右に寄せて一月さんをチラチラ睨んでいたわけか。なるほどなるほど……」


「お前……、授業中俺を見ていたのか!?俺の席からこんなに離れているのに!?」


「日直の仕事に授業観察があるのは知っているだろう?合法的にクラスメイトの動向を観察できるのだ」


 わはははは、と乾いた笑いを付けくわえる江口。

 授業観察なんてほとんどの奴は適当なこと書くし、真面目なのはお前以外だと一人、二人程度だろうよ。しかしなんということだ!コイツでさえそう見えているのだから、他の奴らが勝手な想像をしていないとも限らないぞ。


「まっ、何を言われるかは知らんがとりあえず頑張れよ。彼女はある意味問題児だったから……」


 含みを持たせた言葉を言いつつ江口は席から立ちあがった。


「どこ行くんだ?」


「生徒会室。会長にちょっと用事があってね。何なら鮫野も入るか?お前のその顔と性格なら風紀委員か美化委員の席を空けてもらえると思うぞ?」


「バカを言え。この顔でそんなポストに付いたらマジで全校生徒から怖がられちまう。それに今年の生徒会長の下じゃ力不足にも程があるって、俺なんか」


 そう、去年の生徒会選挙で信任票七十二パーセントで対立候補に圧勝し、戦友として対立候補だった女を、後の生徒会長就任演説中にもかかわらず無理矢理生徒会へと入らせ、実質信任百パーセントとなった生徒会長率いる生徒会に、俺の出る幕どこらか影も無いのだ。因みに負けた方の男は現在副会長である。


「会長としては、鮫野は生徒の規範にもなるし、脅迫材料にもなるから一石二鳥だとおっしゃっていたがな。前にお前が起こしたペットボトルのポイ捨て喧嘩を見ていたそうだぞ?滅茶苦茶楽しませてもらった、いい見世物であったことよ!って」


 一気に生徒会長への株が下がる。と同時に校外でのもめ事と、生徒一人一人を見ていると言っていたことを思い出して少し寒気が走った。今もどこかで生徒を見ているのかもしれないな、これは。


「……じゃあ生徒会長殿に伝えておいてくれ。俺がいつもやっていることは信念と言う名の自己満足で、決して生徒の人生を考えたものではありません。それよりもペットボトルキャップの回収率が悪いので回収ボックスの改善でも目指してください、とな」


 江口は苦笑しながらも分かったと言って教室から出ていった。

 するとなぜか首筋がゾワリとしたので振り向いてみたが誰もいない。そもそも振り向いたところで、後ろにあるのは窓、そして窓の外には男子トイレがあるくらいである。生徒会長の視線かもしれない。さっさと残りのオムライスを食べておとなしくしておくとしよう。


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