闇鍋
文芸部の作品として書いた短編です。何故投稿したのかは気分と答えておきます。
令和元年の冬。その日俺ーー佐藤優斗とその仲間達は、とある人達と完全な非公式。国からも認知されていない闇のゲームの会場を目の前に立っていた。
唾を飲み、会場のインターホンを鳴らす。ピンポーンという音が鳴った後に会場の扉から会場のオーナーである俺の友人が現れる。
「……コードを言え」
「家の中」
「狂ったピエロが」
「ハァイチョイシイィ?」
「よし入れ」
会場に入るために必要な謎のコードを言い、俺達は会場という名の友人の家へと入っていった。
会場に入り二階へ向かう。そして階段を上り終えてすぐにある扉を開けると、ゴゴゴゴゴという物凄い威圧感があるそれはあった。
「今度こそ攻略してみせるぜ『闇鍋』……てめぇーをな!」
そう。この非公式の闇のゲームの名は『闇鍋』。本来ならは俺達が材料を持ってくるのだがこのゲームの場合は違う。参加する俺達以外の人達が材料を用意しそれを調理するのだ。だから、この鍋に何が入っているかは俺達には全くわからない。
「席に着け」
「着いてるよ」
「それでは、ルール説明だ。材料の話は知っての通りだ。順番も以前と同じ一人一人が鍋から具を取り食す。今回参加しているのは、東雲、渋木、八神、佐藤、葛木の五名。一番初めはインターホンを鳴らした佐藤から時計回りだ」
マジかと少し落ち込むが、どうせ自分の番は回ってくる。闇鍋に先に慣れておけばこの後が有利だ。
「具が無くなればゲームは終了。クリア報酬である俺の貯金の半分の現金五十万円が贈られる。つまり君達の勝利だ。しかしギブアップの場合、精神に異常を起こす可能性のある罰ゲームが待っている」
この時点ではっきりと言おう。罰ゲームに関してはかなり危なくなっている。
前回の罰ゲームはデスソースとわさびが入ったコッペパンの完食だった。あれもあれで十分精神に異常を起こす可能性があると思うのだが。いや、あれはどちらかと言えば精神ではなく肉体的なダメージの方が大きい。
「では、はじめ」
開始の合図が鳴ると、俺は素早く橋を鍋の中に突っ込む。まず大切なのは何が入っているかだ。一発目に危険が危ないものを引いてしまっては運の尽きだ。
鍋の中身は紫。そう紫である。もう一度言おう。紫である。鍋が紫色になるなんて普通は起こらない。アニメでない限りは絶対。
しかし、今目の前でそれは起きている。有り得ないと思うが、闇鍋ではこれが普通だ。この前なんかはもっと酷い色をしていた。
箸で具を探し、ある程度の大きさのものを掴む。これだと決めると鍋の外へと持ち上げる。そして俺が持ち上げたのは……、
「……よし」
持ち上げたのはなんといなり寿司。丁寧に米まで包んである。半分くらいがふやけて鍋の中に入っているが。しかしそれはそうと、この闇鍋では当たりだ。形も一口で食べられるサイズ。ぱっと食べれば終わりだ。
ほんの少しの間にそう考えた後に俺はいなり寿司を口の中へと運んだ。少し熱いがそれ以外は普通のいなり寿司だ。何とも珍しい。
……いや待て、なんか変な味が混ざってるぞ。なんて言うか、草とかそういう系の臭いに近い味というか……。
「それじゃあ次は俺だな」
俺がいなり寿司を食い終えるまで待ちきれなかったのか、次の番である葛木が箸で鍋の中を探る。そして何かを掴みそれを引き上げた。その何かとは……、
「な、なにぃー!?」
意外、それは綱ッ! 鍋の中から出てきたのはなんと綱であった。しかしその綱は短いし細い。パスタのように食べれば食べきれないことも無い。
「い、いただきます……」
そしてそれを葛木は口へ運んだ。食べないとこのゲームはクリアできない。俺達は見ることしか出来ないがこころながらに応援はしている。
しかしその綱を噛んだ瞬間に葛木がゲロゲロした。一体どんな味なのかはわからないが、とりあえずひと噛みしただけで戻す程に変な味だったのだろう。どうやらあれはハズレ食材(?)のようだ。
「食べきれない者に、食す権利なし」
「嫌だァ! もう罰ゲームはイヤダァ!」
葛木はそう言いながら突如として現れた黒服とサングラスの男二人に引きづられて別室へと連れられて行った。
この闇鍋のルールにこんなものがある。
『掴んだ食材を落とす、或いは食べきれなかった場合失格とする』と。
今回葛木が破ったルールはそれだ。そしてこれらのルールを破ると罰ゲームが別室で執行される。その罰ゲームはいつも変わるのでどんなものになるのはかはわからない。だが、きついと言うのだけはハッキリしている。
そしてそんな状況の中、次の番である東雲が来た。しかしその東雲までハズレ食材『なんちゃって大根』という謎に紫がかった輪切りの大根を引き、食べた後に吐き出した。どうやら、今回はハズレ食材を引く確率が高いようだ。
そして葛木と同じように連れられて行った。最後の言葉は、
「あの大根は足の味がした」
と、ハズレ食材を食べたことで頭までイってしまったのかと思うような発言をしていた。
そして気が付けばたった数分のうちに二人も脱落していた。そこに感じるのは恐怖。失敗してしまった場合の罰ゲームによる恐怖だ。
「お、俺か……」
次は渋木だ。渋木の顔からは冷や汗が出ており、手が震えていた。緊張しているのだろう。
「あっ!」
その緊張から箸を手から滑らせてしまう。しかしギリギリ両手で掴み落とすことは免れた。
「気をつけろ。箸を落とせば即脱落だぞ」
「わ、わかっている……」
箸とは食べ物を食すための道具。それが無ければ食材を食べることもできない。それ故に、この闇鍋では『箸を落とせば食す気なしと見なす』というルールがある。これは箸を落とせば食べる気なしということでそもそもゲームをする権利を剥奪されるのだ。
「よし……」
渋木は鍋の中を探る。そして何かを掴みそれを取り出した。そしてそれは……、
「やった、肉来た!」
渋木が取った食材はよく鍋で見る肉だ。しかし本当にただの肉なのだろうかと、今まだ残っている人達は疑惑の目を向ける。そしてその肉を渋木は口の中に入れた。少し表情が悪くなったが無事に飲み込んだ。
「ふぅ、食べ切ったぞ」
「よくやった!」
渋木が無事に食べ終えるとそのまま番が八神に移る。八神は箸で鍋を探り何かを掴みそれを取り出す。引き出したそれは……
「なん……だと……?」
なんと、それは丸ごと蛇。よくアフリカ辺りで見かけるスタミナ料理と呼ばれる料理に入っているような食材だ。
「……すまん、リタイアだ」
「諦めるのか!?」
「仕方ないだろ……。蛇を丸ごとなんて、サバイバルをしたことの無い俺には無理だ。生理的に受け付けない」
そう言って八神は立ち上がり、そのまま黒服達に先導されて別室へと移動させられた。これで残るは俺と渋木のみだ。
しかし、残る食材も残るは二つだ。元々難易度が高い分、ハズレ食材と当たり食材を合わせて合計七個となっている。そしてもしも八個を乗り越えたとしてもそこから一度だけ七個追加される。しかしそれは残る人数が半数以上の場合だ。半数以下の場合はこの追加が入らない。
つまり、あと俺と渋木が一人ずつ食べれればクリアということだ。しかしこのゲームのルールにはこんなものがある。
『残り人数が一人になった場合、その者もな同時に失格とす』と。いつもいつもこのルールに俺達は敗れている。
警戒しながら俺は六つ目の食材を鍋から取り出す。その食材は……、
「ダ、ダルマ……だと……?」
出てきたのはふやけて今にも崩れそうなダルマであった。一件ハズレ食材にも見えるが、この場合はどちらかと言うと当たりだ。ふやけているならば口の中に入れるだけで崩れて食べやすくなる。
しかしそれは同時に口の中に入れる前に崩れてしまう可能性もある。ここはゆっくり落ち着いて持って行くんだ。
「……よし」
一度深呼吸をした後に一気に口へと持っていく。そして無事に口の中へと運ぶことに成功した。紙を食べるのは下駄を食べるよりも容易いので、勢いの飲み込む。
「……ぃけた!」
「やった。後は俺が食べれば……」
そのままの勢いで渋木が鍋を探り、最後の食材を取り出す。その食材は……、
「な、なんだとぉお!?」
出てきた食材は……、なんと今までの残りカスが固まったものであった。
「計算していたというのか……これら全てが固まることを……?」
今までの食材が全て。それはつまり、最初の変な味がしたイナリ寿司、綱、なんちゃって大根、肉、蛇、そしダルマ。これら全ての一部が合体し、より奇妙な訳のわからない何かが出来上がっていた。
「うっ……」
「お前ならやれる。これさえ乗り越えれば、このゲームをクリアできる。そしたら、クリア報酬で焼肉行こうぜ」
「あ、ああ! やってやる。脱落したヤツらのためにも!」
「その意気だ!」
「うぉおおおおーーー!!」
脱落した人達のことを思い出し、負けられないと意志を固める。そしてついにその謎の物体を口の中へと入れた。
そして噛む。噛む。噛む。しっかりと飲み込めるくらいにまで噛む! そしてついに、きっちり噛み切ったその物体をーー
「ウヴォシャァァア……」
なんと口外に戻した。
この状況に俺は唖然とするしかなかった。
「……は?」
「ゴホッ、ゴホッ、何だこれ。食べた瞬間に死んだばあちゃんが川の先に見えたぞ……」
「死にかけてるじゃねぇか……って、そうじゃなくてだな!」
俺が死にかけていた渋木に向かってツッコンでいると、背後から誰かが近づくような足音が聞こえた。恐る恐る振り返ってみると、例の如く黒服の男が三人いた。
「食べきれない者に、食す権利なし」
「HA☆NA☆SE☆」
「くそぉ……また敗北か!」
「敗北者……?」
「乗るな渋木って違うだろ! 元はと言えばお前がなぁ!」
そんなことを言いながら、俺達は黒服に連れられて別室へと連れて行かれた。そして、闇鍋の場には誰もいなくなった。
「今回も失敗。またの挑戦をお待ちしておりますよ諸君」
最後に、このゲームの主催者である友人の浅野がそう言ったのが聞こえた。
所変わってここは脱落者が行き着く別室。通称『敗者の間』だ。ここでは脱落したものに対しての罰ゲームを行う場所である。そして今回の罰ゲームは……。
「今回の罰ゲームは『自分のメール履歴をSNSに一週間載せる』だ。そしてそのメールは昨日の午前零時から今日この時までの履歴だ」
「や、やめてくれ!」
「昨日は彼女と……その……」
「まずい、昨日は公開できないような会話をしている……」
「た、助かった……」
「くっそ、こんなんだったら昨日に親子丼の話なんてするんじゃなかった……!」
意外と軽いように見えて結構精神的に来る罰ゲームを受けていた。
しかし、待っていろよ闇鍋。次こそは絶対にクリアしてやるからな。次回の開催は来年のこの日だけどな!
そう心に決め、俺はスマートホンのメール履歴をSNSに載せた。
な ん だ こ の 作 品