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七曜  作者: 酣酔楽
5/8

いい加減

黒い人を見つけた。

髪も瞳も着ている着流しさえも黒い人。ついでに纏う空気も黒いというか冷たいというか、刃を連想させるような鋭利なもの。

普通だったら決して声をかけない、むしろ目すら合わせたくない種類の人間だが、今自分が置かれている状況―すなわち七曜の末裔として外の世界を旅するという使命―は決して普通でなく、相手もまた同じ立場なのだから、声をかけたってなんら不思議じゃない。

ありったけの勇気を振り絞って、「あの」と声をかけてみる。

しかし、少し前を行く黒い人はまったく歩む速度を緩めもしなければ、振り向くそぶりすら見せない。

聞こえてなかったのかな、ともう一度声をかけてみるけれど、反応なし。

思い切って手を伸ばそうとして、さすがに失礼かしらと少し迷う。

自分より斜め後ろを歩く白茅一族の使いのものをちらっと振り返るが、やはり彼も何も無表情な目でこちらを一瞥しただけだった。

旅に出る前からいきなり心が折れそうになって、ぶんぶんと槿花は頭を振った。

大丈夫大丈夫と自分に言い聞かせ、すたすたと迷い無く不破家を目指す黒い人の後をちょこちょこついていく。

やがて見えてきた、外と内との境界には妙な人だかりができていた。

見送り、というのは秘密裏の任務なのでありえないし、妙に女性が多い気がする。

とても近づきにくい険悪とすら言っても差し支えの無い雰囲気に槿花は躊躇したが、前を行く黒い人はまったくペースを変えずにすいっと人垣の中に消えてしまった。

水が流れるように、するすると人垣を通り抜けてしまう。

目を丸くして感嘆していると、ぽんっと軽く背中をたたかれた。


「参りましょう」

「は、はい…!」


お使いの人に無表情に励まされて、槿花はギュッと胸の前で右手を握り締めると人垣の中に突入した。

人垣の中に……中、に…。


「うわ、わっ!あ、あのすみませ…あ、ごめんなさいっ!」


踏まれつ揉まれつ蹴られつ黄色い声に耳をふさぐ余裕もなく、槿花は前に進むことすらできなくなってしまった。

怒れる女性たちのパワーはかくもすさまじきかな。

もしかしたら前に行ったあの黒い人はどこかで倒れちゃってるんじゃないかと、はっとして槿花は思わず地面に目を走らせたが、そんなわけもなく女性のすらりとした脚が見えただけだった。

前に進むことも後ろに戻ることもできずに、ちょっぴり泣きそうになる。

と、ぐいっと右肩が引っ張られた。

あっと声をあげるまもなく、人垣が切れ空が見える。


――太陽だ。


「お前、しっかりしろよな?っつうか、とっととこのうるさいやつら片付けろよ馬鹿野郎!いい迷惑なんだよっ。ギャーギャーうるさいし、親鳥を待つ雛かこいつら?!」

「え、ええ、えええ?!ご、ごめんなさい!」

「は?いや、お前じゃなくてあそこにいる老化現象始まりかけてる女好きな最低たらし野郎のことだよ。自分のケツくらい自分で拭きやがれ!こっちを巻き込むなこのヴォケ」

「え、え…と……」


絶賛不機嫌期間強化中なのか、眩いばかりの金髪をいただく少年は険しい目つきで女性の集団の前に立っている色男をにらみ、とんでもない暴言を吐き続けている。

槿花よりも2つ、3つ年上だろう。頭二つ分くらい背が高い。

話しかけるに話しかけられず槿花が困った顔をすると、ようやく怒りもおさまったのか少年は悪い、とバツの悪そうに顔をしかめて謝った。


「お前、七曜の1人だよな?あの胸糞悪い城で見かけた」

「あ、はい。僕は槿花(きんか)といいます。姓はありません、ただの槿花です。王城で下働きとして働いていました。その、七曜のことを知ってるってことはあなた、も…?」


よろしくお願いします、と頭を下げた槿花は、若干不安そうな面持ちで首を傾げて見せた。

おうっと金髪の少年はニカッと快活に笑って頷く。


「俺は太牙。不破太牙。よろしくな、槿花」

「はい、よろしくお願いします」


太牙につられて笑顔で返す。


「あ、そうだ。お城からお使いの人も一緒に来てたんですけど……あれ?」


振り返ってみるが、泣き落とそうと頑張る女の人しか見えない。

どこに行ったのだろうときょろきょろとあたりを見回して、ようやく集団からはじき出されるようにこけつまろびつ出てきた男の人を発見した。 

きっちりと着込まれていた装束はぼろぼろで、威厳の欠片もない。

2人の視線に気づいたのか、彼は乱れた装束を整えられるだけ整えて精一杯の厳しい顔を作ってこちらにやってきた。


「ここは関所ではないのかな。商売人ではなく遊女のような連中が押しかけているとは。警備のものは何をしている」

「っけ。おっさんこそ商売人じゃねえじゃねえか」

「七曜のものですね?――ああ…、なるほど。納得がいきました。不破家の長男も選ばれていたのでしたね」

「だからなんなんだよ」


ギッと太牙が使いのものをにらむ。


「いいえ」と使いのものは冷たい目で太牙を見下ろし肩を竦めた。


今にも飛び掛りそうな太牙と、彼を子猫でも扱うように片手であしらってしまいそうな使いのものに挟まれて、あわわと槿花は右を見左を見と右往左往する。

背後では一層女の人の声が高まるし、旅立ちの前から軽く地獄を経験した槿花であった。

うう、いい加減にしやがれ!って怒られそうなのったり具合…

でもまだまだ出られないです、この子たち


早く外出たいんだよ!と好奇心盛んな連中に怒られそうですあわわ

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