はじまり
「節、こちらにおいで。」
祖父は静かに自分を呼んだ。
彼が、僕を呼ぶのはとても珍しいことだ。
今日は夕食も済んで、あとは寝るだけのはずなのに、一体どうしたのだろうか?そういえば、今日、祖父は日が傾きかけたころから空を見上げて眉根をよせていた・・・。
節はなんだか変に緊張して、彼のもとに近づいた。
「じいさま。どうしましたか?」
祖父は、せまい部屋の窓際の隅にある椅子に座っていた。僕が近付けば、窓の外に向けていた顔をこちらに向け、そうして、僕の顔をじっと見つめる。
「節、お前はいくつだったかな?」
「18です。」
祖父は少し微笑って「そうか」と答えた。
そうして、またじっと節の顔をみる。節は祖父の瞳が苦手だった。なんでも見通されているようで、なんだか小さい頃から怖かった。見つめられると、いつも居心地の悪さを感じていた。・・・でも、今日は全然そんな気がしない。
節は動かない祖父に、もう一度尋ねた。
「どうしたんですか?」
祖父はそれでも何も答えず、ただゆっくりと、月の明かりに照らされている節の頬へ手をあてた。
「節・・・。」
静かに、愛しそうに、老人は一度だけ名を呼ぶ。
しわしわの乾ききった暖かい手が、頬をなでる。
深い深い瞳で、同じ色の瞳を、優しく見つめる。
節はわけのわからないまま、自分の眼からつぎつぎと零れおちる、不条理な・・・涙に気づいた。
翌日、節のもとへ白茅からの使者がやってきた。
“じいさま いってきます”
とりあえず始めてみましょう




