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翻訳作業  作者: HasumiChouji
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(1)

「郡山藤政先生の具合はどうですか?」

「相変らずですね」

 介護施設の案内役の職員は、そう答えた。

 俺は、先輩作家・郡山藤政先生が居る介護施設を、郡山先生の娘と共に訪れていた。

 俺は、郡山藤政先生の事を「師匠」と呼んでいる。師匠は、結局、作家として芽が出なかった俺の事を、ずっと気にかけてくれていた。……曖昧な状態になるまでは。

 もし、三〇年前からタイムスリップして来た者が居れば、介護施設の職員の多くは、俺達と、そう変らない年代だと思うだろう。

 しかし、もう、外見から本当の年齢を推測出来ない時代になった。

 俺達は八〇を超えても、四〇代の体と頭脳を維持出来ている。

 ここの職員も、多分、四〇代のヤツも居れば、七〇代のヤツも居るのだろう。しかし、外見からは区別が付かない。

 ここ、二〜三〇年ほどで、個人営業のクリニックでも行なえるまでに普及した「若返り治療」。しかし、郡山先生は、その治療を受けた数年後に重度の脳梗塞になり、今は、もうマトモに話す事も出来なくなっている。四〇代の体を取り戻せたとしても、四〇代でも十分に起きる可能性が有る病気までは防ぐ事は出来ない。

「三年前までは、私が誰か判る時も有ったけど……今はもう……」

 師匠の娘の貴美さんは、そう言った。

 俺達が生きている内に、人生一五〇年時代が来るだろう。……だが、それは、俺にとって、師匠がこんな状態になった世界で、半世紀近くも生きていかねばらないかも知れない、と云う事なのだ。

 施設の職員に案内されて、中庭に出ると、ポカポカ陽気の中、師匠は車椅子で眠っていた。

「師匠……。今度、師匠の全集を新版を出す事になりました。……ずっと……師匠の本は読み続けられますよ。……ずっとね……」

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