一、黄昏
今回初めて小説を書かせていただきました。普段から小説を見ないため、お見苦しい所がありましたら申し訳ございません。読んだ方が楽しんでいただければ幸いです。
高校の入学式も終わり、気だるく過ごす毎日。退屈に過ぎ去っていく学校生活の最中、私はまだ所属する部活動を決められずにいた。
「あーあ、帰りたい……」
入江 伶奈十五歳、慶隆高校一年生。ママのハーフの血を受け継いだ私は、無駄に目立つブロンドヘアを背中まで伸ばした女である。私は今、放課後の教室で隣のクラスの友人を待ちながら、校庭のサッカー部を眺めつつ、何故帰宅部がないのかとボヤいたところだ。
「伶奈ー!おまたせー!」
緒方 咲。私の友人であり幼馴染。すらっとした長身と、青年のような顔立ちは、学年性別問わず人気がある。最近髪を染め、茶色がかった頭髪も非常によく似合う。
「行こっか、部活動見学とやらに。はぁ、毎度付き合わせて悪いね。」
私のあからさまに嫌なそうな顔と言動に、苦笑いを浮かべる咲。彼女は運動神経が良く、中学の時には陸上の長距離で全国優勝している。小学生までは私も張り合っていたが、それ以降まともに運動する機会もなく、その実力差は歴然であった。
そんな彼女が入る部活を悩んでいるのは、この学校に陸上部がないことが原因なのだろうか。もっといい学校に行く素質は幾らでもあったはずだ。
「今日は文化部見にいこっか。」
咲が切り出す。私が運動部に入る気がないのは、咲もよくわかっているだろう。運動部の見学に付き合ったお返しということか。
「悪いね、文化部なんて興味ないでしょ?」
私の何気ない問いかけに、想定外の答えが返ってきた。
「私さ、伶奈と同じ部活入ろうかなって思ってるんだけど……迷惑かな?」
もちろんそんなことはない。中学時代こそ疎遠になってはいたが、今は同じ学校に通う唯一の友人だ。
「いや……私はいいけどさ。適当な文化部に入るだろうし。咲はそれでいいの?」
咲は小さく頷く。そういえば彼女は、
『部活は楽しかったけど、誰とも遊ぶ暇なくてさ。なんか窮屈だったんだよね。』
と話していたのを思い出す。あの時は見るからに忙しそうで、私も話しかけるのを躊躇していた。
「とにかく行ってみよ? 何か面白い部活あるかもしれないし。」
お互いに納得する部活はないかもしれない。それでも私たちは、文化部の部室が集中する”特別教室棟”へ歩みを進めた。
淡いオレンジが校舎に差し込む、午後五時と三十分。パッとする部活もなく、そろそろ帰ろうと、特別棟ニ階の薄暗い廊下を歩いていた。
「結局良さそうな部活、なかったね……付き合わせちゃって言うのもなんだけどさ。」
私とは対照的に、咲は終始楽しそうな顔をしていた。自身の無関心さに呆れる。
「そっか……仕方ないって。明日もう一回行ってみようよ!」
何にでも興味を示し楽しめる咲が、私は本当に羨ましい。
くだらない話をしながら、窓越しに黄昏の街を眺める。学校は山に立っているため、街全体を一望できる立地なのだ。景色は良いがいかんせん登校がキツイ。
ふと誰かがいるような気がして立ち止まると、目の前には教室が。
咲もつられて立ち止まり、私の顔を見た後、前の部屋に目をやる。
「……ねえ伶奈、ここってさ。」
室名札は、"多目的教室4"となっている。
「知ってるよ。オカルト研究部、でしょ?」
去年の卒業生を最後に人がいなくなり、廃部寸前だと聞いた。しかし明かりのない部屋の中には、薄ぼんやりと人影が浮かんでいる。
突如、戸車が唸りを上げた。驚いて硬直していたが、次の瞬間には、咲が中にいる人物に話しかけていた。
「あの! ……えと。」
言いかけて口籠る。咲は部室に一歩踏み出しでおり、つられて私も中に踏み込んだ。そして再び咲が口を開いたときだった。
「なに? 貴女達も凰天教に入信するのかしら?」
開いた扉から入る真っ赤な光が、不気味に女を照らし出している。瞬間、この女は危険な部類の人間ではないか、そう感じ咄嗟に言い訳を考えた。
「あ、いや……なんでもない! 部屋間違えただけ。」
私は慌てて咲の手を取り、廊下へと飛び出す。そのまま走って階段まで向かい、息を切らせながら玄関まで全力で駆けた。
「ちょっと!どうしたのさ……」
困惑した顔で咲が私を見つめている。私はというと、あの女の不気味さと、口にした言葉の意味を考えていた。
「ごめん。なんか変な奴だと思ったからさ……ヤバイことに巻き込まれても嫌だし……」
咲は自分が突然部屋に入ったことを謝っている。
……だが問題はそこではない。あの女、どこかで見たことがある。しかし誰だろう。もうすぐそこまで出てきているのだが……
「でもあれ誰だったんだろ、先輩かな?」
違う……やつの名は、"帯刀 婭里寿"。ふと浮かんだその単語は、自分の同級生の名前だ。黒く長い髪、名前のインパクトとは対照的に、地味で印象が薄い。どの学年にもいる大人しめな女子。だがあの時見た彼女の威圧的な目が、未だに脳裏から離れてくれない。
「帰ろうか。」
咲の声で我に返る。私は軽く頷くと、足早に外へ向かった。
私はなんとも言えない気分になり黙りこむ。
「ねえねえ! 今日伶奈のとこ泊まっていい?」
気まずさに耐えられなくなったのか、変に高いテンションで咲が話しかけてきた。しかしそれは、私の陰鬱な気分を打ち消すのにはちょうどいい。昔はよくお互いの家に寝泊まりしていたものだ。咲の両親は、私を姉妹のようだと可愛がってくれた。
「咲ー、その前に寄り道していこ? 何か食べたい。」
あの頃とは違う。だがそれぞれが成長し自分の人生を歩む中、再びその道が交わったのだ。昔同じようなことを言った記憶がある。
『えー? いまから? もうくらくなっちゃうよ!』
なんて言っていたっけ。
「えー? 今から? もう暗くなっちゃうよ。」
おもわず吹き出した。人はそう変わるものではないなと、そう実感する。そんな私を見ながら咲は、なんでよ! と言わんばかりに、ぷくーっと頬を膨らませている。落ちかけた日が彼女を淡く照らしていた。
「あははは! ごめんって! ふっ! あははは!」
先程の出来事を忘れるように、私は思いっきり笑い声を上げる。
「ちょっと! なんで笑ってんの! あっ、待てよ!」
街を濃い闇が覆ってゆく。その不気味な影に、私達の走る音が、笑い声が刺さり消えていった。




