第19話 キツネ男 - Werefox -
パムの森を抜け、再び街道へ出たカイト一向が遭遇した者とは…っ!?
昼食は、俺がパスタを作ることになった。
作り方は簡単で、まず予め乾麺とトマトを茹でておき、続いてみじん切りにしたニンニクと森で取れたシメジを適量の塩コショウとオリーブオイルで炒める。
最後にトマトを潰しながらそれらを絡め、荒刻みのバジルを乗せれば完成だ。
食材や調味料の名前が、俺が元々居た世界とほぼ一緒だったのが幸いし、独り暮らしで培った男料理ではあったものの、二人共喜んでくれていた。
そして、南西側のヴァルニア街道を何事もなく歩き、アドニアの街までもう少しというところで、俺たちは一人の獣人とすれ違う。
「おやぁ…? こんなところでヒト族を見かけるなんて、珍しいですなぁ」
「あ゛ぁ…?」
すると獣人の男が、少し変わったトーンで話し掛けてきた。
俺は、フード付きのローブを羽織っていて、顔は見えないはずなので、無視すれば良かったのだが、つい返答してしまった。
「そこの貴方ですよ。あ・な・た! 私、とても鼻が利くものでしてねぇ、匂いで大抵の事は分かってしまうのですが、いやぁ…それにしても、実に珍しい」
ぱっと見では、獣人の男は長細い顔と目を持ち、耳と鼻と手足は黒く、それ以外は黄色っぽい毛色をしていた。
「カイトさん、気を付けて。この人嘘つきで有名な“フォクシオ族”だよ」
「そうか。分かった」
シャルロッテがすかさず耳打ちして来たが、やはりキツネの獣人だったか。
彼女の助言もあったので、疑いの目を向けつつも話を続けた。
「それで…、何の用だ」
「私、フォクシオ族のへルマン・ワーキンソンと申します。以後お見知りおきを。ところで、皆様…私の見立て通りですと、旅のお方でございましょう? 私こう見えましても、古物商を営んでおりまして、お値打ち価格の品物を数多く取り揃えているのですよ!」
「はぁ……」
「まぁまぁ、百聞は一見にしかず…ですよ? ちょっと、そこいらで見ていて下さいな。」
俺が、あまり関心無さそうに見えたのだろう。
自称古物商のへルマンは、何やら詠唱を始める。
「我らが獣人の神アステリアよ。境界を隔てし異界の狭間より、我が持参せし商品の数々を此処へ展開し給え…、ストア・イクスパンション!」
へルマンが詠唱を終えると同時にボンッと商店が丸々一軒現れた。
「わわっ!? お店ごと持ち歩ける程の収納魔法持ちさんなんて、このお方は物凄いお方ですよ~。カイトさん、見て下さい~。色んな商品がありますよ~?」
すると、何故か俺が反応するより先に、ミーナが食いついた。
というか、俺も街ごと持ち歩いてるとか言われた、“倉庫接続”が使えるという事を忘れてないよな…?
「そうでしょう? 長旅ですと何かと物入りでしょうし、ささ、貴方様方も是非ともご覧下さい! まず、最初に紹介しますはこちら! 瀕死の際に致命傷を肩代わりしてくれるというマジックアイテム! その名も、“身代わり熊さん人形”でございますっ!!」
そして、へルマンはお得意の商売文句で、唐突に商品の紹介を始めた。
「わ~っ! 身代わりアイテムって言ったら激レアですよ!? その上、とっても愛くるしくて、ふわふわもこもこな熊さん人形だなんて~っ! 女性の旅の御守りとして、一人一個は必携ですね~。私も欲しいです~」
ミーナよ、お前は通信販売のキャストか。
熊さん人形とか、絶対に効果ないだろ。
「そこのお嬢さん。良く分かってらっしゃる。今なら、こちらの無色透明のペンで見えない文字を書いて、専用の色ペンでなぞると文字が浮かび上がってくるという、摩訶不思議なマジックアイテム“魔法のレターセット”も付けて、お値段何と金貨5枚! さぁ、お兄さん! 今が、お買い時ですよ~」
それって昔、俺の親世代の頃に某シリアル食品のオマケとして付いていたという、マジカル何とかペン的な物ではないだろうか…。
「おぉ~っ! 正しく秘密の文通って感じがして、何ともロマンチックで素敵ですね~。カイト様、これは買いですよっ!」
へルマンが、実際に羊皮紙へ書いて実演しているだけあってか、ミーナは明らかに熊さん人形の時よりも、目を輝かせている。
お前、絶対オマケの方が狙いだろ。
「要らん。お前、文通相手なんか居ないだろ。それに、身代わり人形なんざに頼る必要もないしな」
「はぅっ! そ、そんな…カイト様~…」
俺に一言で切り捨てられたミーナは、ショックのあまり、地面に手を付きシクシク泣いている。
そんなに欲しかったんか…っ!?
「あっはははは…。ミーナちゃん、相変わらずそういう物が好きだよね…」
一連の流れで、ミーナの落ち込み様を見たシャルロッテは、一人苦笑いしていた。
「本当に宜しいのですかねぇ? あとでやっぱり、あの時買っておけば良かったとか言われても、知りませんよぉ?」
「どういう意味だ…?」
「深い意味などございませぬ…ニッシッシ…」
へルマンは、只でさえ良く開きそうな口を吊り上げ、ニタニタ笑っていた。
「それでは、続いての商品のご紹介を…」
「もういい、結構だ。そろそろ街に行かないとならないしな」
へルマンの、不気味な作り笑いが不愉快だった俺は、次の商品を紹介される前に、無理やり話を切り上げた。
「そうですか…。それは、それは、ご希望に添えなくて残念でなりませんねぇ。お忙しい中、お時間を取らせてしまい、申し訳ございませぇんでした」
へルマンは商店に向けて掌を翳し、時計回りで弧を描くように回すと、商店は螺旋状に回転しながら空間に飲まれて消える。
「問題ない。二人共、行こう」
「あ、うん。分かったよ。ほら、ミーナも行こうよっ!」
「あぁ~ん。私のレターセットがぁ~…」
俺がそう言い、振り返る事なく即座に街へ向かって歩き出すと、シャルロッテはまだ落ち込んでいたミーナを引きずりながら付いてきた。
「あぁ…、街へ行かれるおつもりでしたら、長身な黒装束の男には気を付けた方が宜しいかと。では、またのご来店を、心よりお待ちしておりまぁす」
へルマンは、俺たちが見えなくなるまで、その場をじっと動かずニタニタし続けていた。
そんな彼が、最後に言っていた言葉の意味が分かったのは、街へ入って暫く経ってからの事であった。
怪しげなキツネ男が残した言葉。
信じるかどうかは別としても、気になりますよね…。




