<第七章> 3人のヒーロー
<第七章> ” 三人のヒーロー ”
安形たちは一台の破壊された車を見つめた。
巨人が鼻をかんだティッシュのようにグシャグシャの車は、もはやどう見ても動きそうにない。
「何だよこれ……何をどうしたらこんな状態にできるんだ?」
自分の愛車の無様な姿を見て、鈴木は言葉を失った。
「ひでーな。化け物にでも襲われたように見えるぜ」
川上は冗談ぽく笑った。
車の状態を真っ先に心配している二人を他所に、安形は車内に居る筈の二人の行方を考えた。
「一体何に襲われたんだ? 熊がこんなことできるわけも無いし」
――まさか、あの二人死んで無いよな。車内に血の跡はないから大丈夫だとは思うが……。
自分の命を取り消そうとしてきたはずの人間ならば、普通は車の心配や、同じく自殺志願者の心配はしない。にも関わらず、鈴木、川本、安形はそれぞれがそれぞれの理由で現状に心を痛めていた。何故ならば、彼らは自殺志願者では無いのだから。
この場で、純粋に予定通りの目的を達するために来たのは、恐らく優子ただ一人だろう。到着次第すぐに目的を達成するはずだったのに、中々皆が行動に移らないので、優子はひとり退屈そうにしていた。
安形は優子のそんな様子を見てある決心をした。車を失ってしまった以上、鈴木と川上がどんな行動を取るかも分からない。大事になる前に優子は真実を知っておく必要がある。そう判断した。
鈴木らがまだ車を調べているのを視界の隅で確認すると、安形は不自然に見えないように気を使いながら優子の隣に立った。そして、前を見ている優子の耳元に口を近づけると、小声で話しだした。
「優子さん。これから俺が話すことを黙って聞いてください。決してあの二人に動揺がばれない様に」
「何です?」
いきなり安形が顔を近づけたので、優子は不信そうに一歩下がった。安形はそれに構わず距離をつめ、会話を続ける。
「君は俺たちが自分と同様、自殺するためにこの樹海に来ていると思ってるだろ?」
「ええ、当たり前でしょ?」
「実は、それは違うんだ。あの二人も俺もそんな気は最初から無い」
「はい?」
「これを見てくれ」
安形は自分のジーパンの腰に付けている長い金属製の筒を、一瞬だげ優子に見せた。それが何かわかった優子は目を仰天させた。
「じゅ、銃!?」
「俺は刑事なんだ。最近自殺の集いに見せかけて金品を奪ったり、その参加者の体を甚振ったりする事件が頻発していたから、それを調べるために潜入捜査でここに来た」
「け、警察の人? じゃあ、鈴木君たちは……」
「ああ、あの二人は連続殺人鬼だ。樹海に入るのをこれまで何度も目撃されている」
「何ですぐに捕まえないんですか?」
鈴木らが連続樹海殺人鬼だと知り、怖くなったのだろう。優子はぎゅっと安形の袖を掴んだ。
「残念だけど、確実な証拠が無いんだ。すぐに捕まえられるなら、俺がわざわざこんな潜入捜査なんかしているわけが無いだろ?」
「じゃあ、私が死ぬまで待つって言うんですか!?」
「いや、もちろん直前で止めるつもりだったさ。殺す意思を確認できればいいだけだったんだから」
安形はここでより一層声を小さくする。
「でも、今は事情が変わった。さっき亜紀ちゃんの引き返すというセリフに彼らは反対しただろ?」
「そういえば――……でもそれが何だって言うんです?」
「あのまま引き返すことが出来なかったんだ。これは俺の想像でしかないけど、多分あの二人は遺書か何かを自宅に置いてきてるんだろうな。本当の自殺に見せかけるために」
チラッ、と横目で鈴木らがまだ車を調べていることを確認しながら、安形は話を続けた。
「さっき亜紀ちゃんたちが逃げていく前に、皆でトランクを開けて縄やら何やら色々と出そうとしただろ? あの時にカツラやサングラス、私服まで合ったのは変だとは思わなかったか?」
「た、確かに奇妙だと思った。自分の最後は身を綺麗にしたかったのかと無理やりなっとっくしといたけど……あれってまさか……!」
優子は安形の言いたいことが分かった。
「自分たちを死んだことにして、警察から逃げる気だった?」
「ああ、そうに違いない。そうでもなければ、態々(わざわざ)あんなガラクタ持ち運ぶ連中なんていないからな」
彼女は元々死ぬ気でここに来ていたようだったが、鈴木らの恐ろしい計画を知ったことで、現状に恐れを抱いたようだ。口だけでは簡単に死ぬなんて何度でも言える。しかし、本当の死なんてものは、実際にその命の危険が近づかなければ理解できない。そして、そのときはいくら死にたいと願っていた者でも、死の恐怖に怯える。本当は死にたくなんて無いのだから。死にたいということは、逆にいえば、もっと幸せに生きたいということ。だが、現状を自分の力で乗り越えることが出来ないからこそ、その本心を隠して非行に走る。
安形は的確に彼女の心理を理解した。
「でも向こうにとっても、こっちにとってもまずいことに、今あの二人は逃走用の車を失った。ここから歩いて町に戻る頃には警察に捕まるだろう。彼らもそれが分かっている」
安形は推測のみの説明を続けた。
「だからこそ、俺は君に真実を話したんだ。追い詰められた彼らが何をするかわから無いからな」
「……そんな……!」
優子の袖を掴む力が強くなる。
彼女の怯えに気づき、安形は何とか恐怖心を落ち着けさせようと、彼女の肩を強く抱きしめた。
鈍い音が前方から聞こえる。半場抱き合ったままの二人が視線を前に向けると、不機嫌顔の鈴木と川本と目が合った。
「安形、駄目だわ。このポンコツ、もう動きそうにねえ」
鈴木は自分の愛車に蹴りを食らわせたらしく、ボロボロの車にまた一つ凹みが増えている。
「ま、まあ、俺たちこれから死ぬんだし、別にいいじゃんか」
安形は自分が真実を知っていることを悟られないように、鈴木らのカモの振りをした。
「そうだけどさ……」
鈴木はまだ怒りが収まらないのか、再び車に蹴りを入れる。
自分の車では無いことで、若干鈴木よりも興奮度が低かった川本は二人が抱き合っていることに気がついた。
「あれ、お前らいつのまにそんな関係になったん?」
「あ、ああ、何かさっきから気が合ってさ。短い間だけど、付き合うことにしたんだよ」
「は、ははは! 何それ? マジでメチャクチャ短い関係だな」
安形の苦肉の言い訳に気づくことなく、川本は馬鹿笑いした。
「川本。このままここにいてもしょうがないし、さっさとここに来た目的を果たそうぜ」
逃げられないことで何かの箍が外れたらしい鈴木は、優子をイヤらしい目つきで見ながらそう言った。
裏を知らない人間ならば、ここで言う目的とは自殺だと思うだろう。だが、真実を知っている安形と優子はその言葉の意味を理解した。鈴木と川本の醜い欲望を。
恐らく、この狂人二人はもう自分たちが牢獄に入れられることを覚悟しているのだろう。そしてその前の人生最後の獲物として、安形と優子で遊ぶ気なのだ。
――人間の屑め!
こんな連中の慰め物になっては堪らないと、安形は腰の膨らみに手を当てる。
そしてそこにある銃の重みを確かめると、優子をより一層強く抱きしめた。
「悪魔!? ほ、本当なの?」
亜紀は今耳にした言葉が信じられず、反射的に聞き返した。
「信じられなくても事実だから。車で逃げられなくなった以上、私の言うことを聞かないと亜紀ちゃん死んじゃうわよ」
「……う、うん」
亜紀はほんの三十分ほど前に、黒犬の巨大な怪物に襲われたばかりだ。小宮の話す内容はまだ半信半疑だったが、あの黒犬を見てしまった以上、信じないわけには行かない。
――……悪魔か。さっきの怪物を見ちゃったからなぁ。私は優子を助けたかっただけだったのに、何でこんなことになるのよ。
当初の目的とはどんどんかけ離れていく自分の境遇に、亜紀は目頭が熱くなるのを感じた。
「あの、小宮さん。こんなに森の奥深くを歩いて大丈夫なの? 悪魔っていうのがうろついているんだよね?」
二人は巨狼に襲われた後、すぐに樹海の内部へと入った。小宮が「道路を歩いていると良いことが無い」と無理やりに亜紀を連れ込んだからだ。
「大丈夫だって、私は昨日からずっとこの森で過ごしていたのよ? 信頼しなさい。それに、いざとなれば隠れればいいんだから」
亜紀という連れができたからか、小宮は最初あったときよりも随分と明るい表情を見せた。
「大丈夫って――大体今どこに向かってるんですか? 助かる当てでもあるんですか?」
「あるわよ。このすぐ近くに銀野町っていう小さな町があるの。そこに行けばきっと保護してくれると思う」
「このすぐ近くって、本当に大丈夫なんですか? 悪魔がここら辺をうろついているなら、その町の人たちだって死んでいるかもしれないじゃないですか!」
小宮の浅い考えに反論する亜紀。
「……そうかもね。でも、今はそこに行くしかないでしょ」
小宮は疲れたように言った。自分でも、どうするのが一番いいのかわかっていないのだろう。
――はぁ、しょうがないがないな。
亜紀は小宮の心情を理解し、それ以上文句は言わなかった。今は泣いていても何も変わらないし、白馬に乗った王子様が助けてくれるわけでもない。自分の力でこの地獄を乗り越えるしか無いのだ。このまま最初から死ぬ気でいたら、助かる命も助からなくなる。
気合を入れるように前髪をピンセットで固定すると、亜紀は強い眼差しで前を見据えた。
その様子を見ていた小宮は感心したように頷いた。
「亜紀ちゃんは強いね。よくこんなことに巻き込まれたのに冷静でいられるよ」
「強くなんてないですよ、天邪鬼なだけ。なんか悔しいじゃないですか。ただ泣き叫んで殺されるの待つなんて。何が樹海をこんな状態にしたのか知らないけど、そいつの思い通りになんて絶対になってやらない。私は維持でも生きてここから出てみせます」
小宮は亜紀の凛とした顔を見て、やさしく微笑んだ。
「やっぱり亜紀ちゃんは強いよ。私なんて初めて悪魔に遭ったとき、怖くて一緒に逃げていた仲間を見捨ててきちゃったんだから。きっと亜紀ちゃんだったのなら、逃げずにあの人たちを助けようとしたんだろうな」
「そんな、私はまだ悪魔を見てないからこんなことが言えるだけですよ。実際に目にすれば怖くてずっと丸まっちゃいます」
「またまたぁ、謙遜しちゃってぇ〜」
小宮は笑いながら亜紀の肩を軽く押した。
近い! もうすぐそこだ。
欲しい。
欲しい。
欲しい。
憎い。
憎い。
憎い……!
小宮が亜紀たちと出会う前にやり過ごした一体の悪魔は、とうとう彼女を探し当てた。
臭いを頼りに真っ直ぐ小宮の元へと走り続ける。
彼は陸上の世界代表選手顔負けの速度で距離を潰し、あっという間に小宮の後ろ姿を視界に捉えた。
「――っ危ないっー!」
小宮はいきなり亜紀に突き飛ばされた。
コンマ数秒の差で、彼女が立っていた位置に悪魔の爪が振り下ろされる。
耳元の空気が切り裂かれる音を聞きながら、小宮は襲撃者の姿をはっきりと間近で見た。
血管だらけの灰色の肌に、ほとんど眼球の全てが飛び出した血走った目、唇がなくなり、歯茎と歯が直に見えるようになった口、逆立った全身の毛は言うまでもなく、通常の人間の物とは全く逆に曲がった腕と足の関節。さらには額から突き出るように盛り上がった頭蓋骨の一部。
本当にこれが人間だったのか疑ってしまうほどの悪趣味な形態に、小宮は手を口に当てて叫びそうになるのを必死に抑えた。
この腰からぶら下がっている十字架には見覚えがある。それは数刻前に自分が撒いたばかりの悪魔だった。
――何で、何でこいつがここに!? まさか、私を追ってきたの?
動揺する二人を尻目に、その珍妙な形態をした悪魔は、逆間接の腕と足を四足動物のごとく地面につけると、追撃に入った。
パッと見、前に伸ばしたように見える両腕は肘から先がそのまま下に折れ曲がり、大地を踏みつけている。
また、足も同様に膝から先が太ももの正面部向けて鋭角を作り、両腕と対象のアーチを形成していた。
エクソシストという映画では、悪魔に取り付かれた少女が上を向いたまま四足で階段を下りてくるシーンがある。この悪魔の姿は胴体が下を向いているももの、それに酷似していた。
四足歩行になったことで、悪魔は進化前よりも飛躍的に上昇した跳躍力と速度を活かし、小宮が起き上がる間もなく飛び掛ってきた。
「――くう!」
小宮はゴロゴロと転がる様にして、その攻撃を紙一重でかわした。
「亜紀ちゃん! 逃げて!」
こいつはヤバい! と直感で感じた小宮は、悟らを見捨てた負目のため、亜紀に先に逃げるように促した。しかし、亜紀はもちろん逃げようとはせず、近くにあった石を抱えると、悪魔に向かって投げつけた。
「この化けもんめ!!」
しかし、亜紀の攻撃が非力だったことに加え、元々身体能力が以上に高いこの十字架の悪魔に、そんな抵抗は何の意味もない。悪魔は避けようともせず、亜紀が放った石を片腕で弾いた。
「ギュアァァアア!」
攻撃されたことに腹を立てたのか、出目金のような目で亜紀を睨みつける。
「うっ……!」
生気を吸い取られるかの様に冷たい視線に、亜紀はビクついた。
「何してんの、早く逃げて!」
亜紀が全く逃げようとしないので、小宮は大声で叫んだ。
「小宮さん! 私が劣りになってこいつを引き付けるから、その間に逃げて!」
「な、何だって!?」
亜紀の言葉に小宮は耳を疑った。
「私、高校時代陸上部だったから大丈夫だよ、任せて!」
「無理よ、逃げ切れる訳無いでしょ!」
――あの悪魔の速さは人間の比じゃない。いくら亜紀ちゃんが走るのが速くても、あれから逃げ切るなんて不可能よ!
だが、小宮の心配も裏腹に、亜紀は既に走り出す用意をしだした。
――助けなきゃ……!
小宮の頭に浮かんだのは、只それだけの単純な思いだった。
悟らを見捨てた償いだとか、自分の命の危険も省みず、優子や小宮のために危険な行動に走る亜紀に感化されたとか、そんな深いことを理由に持ったわけではない。
ただ亜紀を助けたい。あの子に死んで欲しくない。
その純粋な気持ちが自然に小宮を動かしたのだ。
亜紀は今まさに走り出そうというときに、それを見た。
自分に襲い掛かろうとしていた悪魔に、小宮が抱きついた姿を。
「小宮さんっ!?」
自分が何を言っていたのかは殆ど覚えていない。
ただ、そのときの小宮の優しそうな表情だけは鮮明に記憶に残っている。
何故ならば、その悲しそうな微笑は亜紀の母がしていたものだから。
小宮の最後と母の最期が重なった。
亜紀は走っていた。
悲しみから逃れるために。
恐怖から逃れるために。
母と小宮、二人の人間を自分の所為で殺してしまった罪悪感から逃げるために。
悪魔に抱きついた小宮は、そのまま相手を地面に押し付けると、所持していた尖った石で紅い目の片方を奪い取った。
そして、それを最後に悪魔の反撃に遭い、若干二十歳の短い人生を終えた。
悪魔は片目を失った所為で、こちらの動きに反応しきれなくなったらしく、亜紀は上手く悪魔から逃げることができた。
――ごめんなさい……ごめんなさい……御免なさい。――小宮さん……!
心の中で何度謝っても亜紀の心は晴れない。ますます闇に沈み込むばかりだ。目からは大粒の涙か留め止めも無く溢れてくる。
「こんなの、嫌だよ……嫌だ」
亜紀は泣き崩れるように樹海の土に伏した。
「もう優子なんてどうだっていい! お願い神様……私を家に帰して、帰してよ!」
白い上着が土で汚れるのにも構わず、亜紀は地面と抱き合い続けた。
どれくらいそうしていただろうか。
かなり近い所から突然耳障りな声が聞こえた。振り返ると、小宮を殺した悪魔が数十メートル後ろに見えた。
――嘘でしょ…………!?
目の前で小宮を殺されたばかりの亜紀に、悪魔と戦う気力はもう無かった。
恐怖に引きつった顔で逃げ出す。
この広い樹海にたった一人だけで見たこともない化け物から逃げているのだ。亜紀の恐怖はかなりのものだった。腰を抜かさずに走れていることすら奇跡に近かい。
「誰か、助けて! お願い――……」
短い間に連続して恐怖を味わった亜紀の精神は、限界間近だ。腰を抜かすまではいかないものの、その足取りはおぼつかなかった。
土の下に石でも埋まっていたのか、それまでのなだらかな地面とは違う硬い土壌に突然足を踏み外してしまう。当然、亜紀は転んでしまった。
――しまった! 殺される!
そう思ったときは既に遅かった。悪魔のものと思わしき影が亜紀の全身に覆いかぶさる。
「い、いやっ……!」
脳内で小宮の死の映像がリプレイされた。
「あの、大丈夫?」
突然、亜紀の耳に悪魔の醜い鳴き声、ではなく、若い男の声が聞こえた。
――……人間?
亜紀は相手の存在を確かめるべく伏せていた顔を上に上げた。
眉に少しかかるくらいの緩やかな癖毛の黒髪、男にしては長い睫と大きな目、一見美少年にも見えるが、少し太めの眉毛のおかげで男らしさを保っている。
どこか闇のあるその顔は、何か過去に辛い経験を持っていることを感じさせる。目の前に、見たこともない精悍な青年が立っていた。
亜紀は一瞬男の姿に気を取られていたものの、相手が不思議そうに自分を見ていることに気がつき、慌てて立ち上がった。
「だ、大丈夫。ありがとう」
「よかった。死んでるのかと思ってヒヤヒヤしたよ」
男は優しい笑みを浮かべた。
「君も連門大学の学生?」
「連門? いや、私は……旅行者。車が壊れちゃって……」
「そうか。災難だったな」
この異常な樹海内においてごく普通に振舞う青年に、亜紀は疑問を持った。
「君の名は?」
青年は道でも尋ねるようにそう聞いた。
「わ、私は吉田亜紀」
「吉田さんか、よろしく」
そのまま謎の青年は歩き出そうとする。亜紀は咄嗟に彼を引き止めた。
「あ、そっちは……!」
その言葉に青年は立ち止まると、亜紀の方を振り返った。
「心配ない」
その時、木の合間から二人の立っている所に向かって、何の前触れもなく先ほどの悪魔が飛び出してきた。
「きゃあ!?」
いきなりだったので亜紀は驚いたが、悟は彼女とは違って冷静に悪魔を見つめる。
「さがって、大丈夫だから!」
無表情でそういうと、悟は背中から木の杭を取り出した。
「大丈夫って!」
これまで悪魔から逃げてばかりいた亜紀は、悟の言葉を信じられなかった。
「君が追われているのは見てて分かったから。罠を張らせて貰った。俺たちに任せろ」
「俺たち……?」
既に悪魔との距離は殆ど無い。四足の化け物は二人に飛びかかろうとしたが、その行動が成功することは無かった。
悪魔は身を屈めた瞬間、設置されていたらしい紐のようなものを足にひっかけた。
足に引っ張られた紐は悪魔に向かう形で左右の端を飛ばす。そのどちらにも燃えた松明がくくり付けられていた。
「ギャアアアア!?」
何かが足に引っかかったと感じた瞬間、その両側から燃え盛る枝が飛んできたため、悪魔は避ける間も無く炎に包まれた。
それと同時に左右から庄平と友が、正面から悟が、それぞれ槍や杭を持って悪魔に突っ込んだ。
小宮を殺した悪魔、亜紀に異常なほどの恐怖を植え付けた化け物は、一瞬の間にたった三人の青年に倒された。
作中で一応書いていますが、忘れやすいのでここに書いておきます。
曲直 悟 19歳
大井田 庄平 19歳
国鳥 友 21歳
キツネ 24歳
吉田 亜紀 18歳