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end of the ×××
数百年に一度咲くと言われる氷の花。最果ての氷床にのみ根づくその生態は、いまだ多くの謎に包まれている。
わかっているのは、満月の夜に咲くということと、開花の瞬間、空にはオーロラが出現するということ。そして、一夜にして枯れてしまうということだ。
まさに今、僕の足元には、氷の花が咲いている。かつて誰かが残した手記には「あまりの美しさに、心が侵されるようだった」と記されてあった。
一夜限りの儚い命。だが、朝焼けに染まる空の下、花が枯れる気配はいっこうにない。それどころか、その輝きは増すばかりである。
しだいに辺りは暗くなり、黒い雲が頭上で渦を巻き始めた。
「……」
儚いはずの花が、妖艶に笑った気がした。
枯れぬ花が告げるは始まり。
終わりの始まり。