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華のともしび
私は嫁ぎます。自分の意思で。
愛する彼のもとへ。
とおりゃんせ。
とおりゃんせ。
「父上、母上、今日までありがとうございました」
いっさいの笑みを漏らさぬ父と、顔を逸らし狼狽える母に一礼し、私は一人山へと向かう。白無垢を纏い、紅をさし、たった一人。参進する者は、ほかに誰もいない。
両親も、親族も、村人も……誰一人として私を愛してはくれなかった。
私を愛してくれたのは、彼だけ。
山を統べる大神。白銀の毛と黄金色の眼を持つ誇り高き——狼。
とおりゃんせ。
とおりゃんせ。
深い緑の木立を、
もう二度とは戻れない——戻るつもりのない路を、
とおりゃんせ。