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しろいくじらは愛をうたう
一瞬だった。
真白く美しい街並みが、緑溢れる島が、一夜にして紅蓮に沈んだ。
痛みに泣いた。故郷を奪われた。
悔しさに泣いた。非力な自分を恨んだ。
憎しみに泣いた。必ず復讐をと誓った。
強くなりたい。
強くなりたい。
呻き声とともに、自分の中に悪鬼が生まれた。
強くなりたい。
ツヨクナリタイ。
地獄への道すがら、ふと立ち寄った、海辺の宿屋。
「おにいちゃん、どこかいたいの? だいじょうぶ?」
主人の娘の言葉、その小さな温もりに——優しさに、泣いた。
「いたいときは、いたいってさけんでいいんだよ。ないてもいいんだよ。いっぱいさけんで、いっぱいないたら、すこし、いたくなくなるよ。……ままが、おほしさまになるまえ、おしえてくれたんだ」