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【完結】王様の嫁は御庭番  作者: 真波潜
第二章 ソロニアの蛇
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余談 十四幕 掃除婦の懸念

一人称で、使用人視点でのお話です。一部あれこれな妄想があるので許容できる方のみお読み進めください。

 まただわ。

 またあのクッションがくしゃくしゃになっている。

 国王陛下はいつでも愛想が良く、私たち使用人にも優しいのだけれど、その重圧(ストレス)はどこで発散していらっしゃるのかしら、と思っていたらある日見つけてしまったの。そう、このくしゃくしゃのクッション。

 まだお若い陛下の重圧は、私たち下々の者には計り知れないわ。でも、一つだけ出来る事はある。

 私たちにしか見つけられないもの。身の回りの物の様子で私たち使用人は陛下の重圧を推し量り、僭越ながらもそれを軽減させるべく、快適な生活ができるようにお世話をさせてもらう事。

 陛下は真実良い人なのよね。物に当たる事も無いし、生活が御乱れになる事も無い。奥様を愛していらっしゃるのも良く分かるし、だから使用人に手を付ける事も無い。自慢の国王陛下よ。

 ただ、このクッションだけは別。なぜかいつも、このサロンの、このヴィクトリアン柄のクッションだけはくっしゃくしゃにされるの。

(陛下……やはり何かしら大きな重圧を抱えていらっしゃるのだわ……)

 西の山賊騒ぎからの反乱も、南の怪しい気配も、あっという間に鎮圧してしまった陛下。

 それはそうよね。それだけ出来るお人が人間性まで完璧なわけがないわ。クッションの一つで済んでいるのが奇跡的よ。でも、このクッションの事は王妃様は知っていらっしゃるのかしら……。

 知らずにお一人で重圧を抱えられていたならばどうしましょう。このクッションのように私はくしゃくしゃになって受け止める事はできないけれど、王妃様ならば支えてあげられるのでは無いかしら。

 いえ、王妃様のお支えがあってもこのクッションはこうなっているのよね。

 王妃様も素晴らしい方よ。他国から嫁いできて慣れない中で、完璧以上の社交を行ってくださっているわ。人形姫、なんて揶揄される事もあるみたいですけれど、そんな言葉にもめげずにいつも周りの人たちを気遣っていらっしゃるわ。

 美しい王妃様のお世話をするのも、私たち使用人の誇り。

 無表情なのが玉に瑕だけれど、話す声は歌うように優しく美しいお方。

 国王陛下も王妃様との時間をとても楽しんでいらっしゃるわ。それは小さいころからお世話をしてきた私たちだから分かります。

(だからこそ……このクッションは、異常事態の前触れなのかも……?!)

 王妃様と会談した翌朝、妙にくしゃくしゃになっているクッション。

 あっ、もしかして……?!

(王妃様の美しさ可愛らしさに身もだえていらっしゃる証拠……――?!)

 だとしたら、国王陛下ったらなんていじましいお方なのでしょう。

 王妃様を気遣って夫婦別室を貫き、仲睦まじくとも王妃様を大事にしていらっしゃることが分かる陛下。最近は閨を一緒にされる日もありますけれど……こほん、これは公然の秘密というやつよ。

 そんな陛下がクッションをくしゃくしゃにするなんて、きっとそうよ、王妃様の魅力に身もだえて思わず力が入っちゃったに違いないわ!

 そういう事ならば、しっかり日干しして綿を入れ直してさしあげなければ。

 何度くしゃくしゃになっても、この掃除婦歴十年の私が綺麗にして差し上げますからね!

 お任せあれ、陛下!


 ……おかしいわ。昨夜の会談はソロニア帝国からいらした王妃様のお父様、オペラ伯爵様との会談だったはず。王妃様に見悶える隙なんて無い筈なのに、何故。

 何故くしゃくしゃになっているの、クッション。

 意地悪な舅に何か嫌味でも言われましたの、陛下? ご心痛お察しいたしますわ。

 いえ、でもオペラ伯爵のお世話をさせていただく機会がございましたけど、あの方も素晴らしい紳士でいらっしゃったわ。使用人の私たちにも国の様子を聞いたり、王妃様の様子を尋ねたり、気さくに話しかけてくださって。

 笑った顔が素晴らしく魅力的なお方だったわ。どこか華がある雰囲気なんて王妃様そっくり!

 あっ、もしかして……?!

(オペラ伯爵様にも魅力を感じられてしまったのかしら陛下……――?!)

 両刀でいらっしゃるの……? お若い陛下だけれど色っぽい話はのらりくらりと躱していらして浮いた話の一つも聞かないと思ったら、そういう公にできない性癖をもっていらしたのかしら……?!

 だとしたら大変だわ。陛下の秘密をお守り申し上げねばなりません。

 どんな理由でくしゃくしゃになっても、掃除婦歴十年の私が見事に元に戻して差し上げますとも。

 お任せあれ、陛下!

 でも、あらいやだわ、オペラ伯爵様もとなると父と娘で一人の殿方(へいか)を奪い合う事に……?

 昨日の様子を聞いたところでは(使用人同士のお喋りはするけれど外には漏らさないのが行儀です)、王妃様も伯爵様も陛下と仲が良いご様子。

 本命は王妃様だとして、まさかその父上とまで淫らな関係になっていらっしゃったとしたら……。

 いえ、早とちりはダメよ。そういう所が掃除婦止まりの理由なのよ私。ダメ。こういうのは密かに想像するもの、仕事中に考えて良い事では無くってよ。

 もし本当にそっちの気がおありになって、万が一にも父娘で陛下の取り合いになったとしても……いいえ、いいえ、そうならないようにクッションがいるのね。

 きっと自らの愛する人の父親にときめいてしまった背徳的な感情をこのクッションにぶつけられているのよ、陛下は。ご自身の国の貴族では無いのだもの、そうそう閨に呼びつけるわけにもいかないわよね。まして、愛する王妃様のお父様なのだし。

 そうよ、だからこのクッションがいるのよ。クッションが全てを吸収してくれているのだわ。このくしゃくしゃは勲章よ。クッションだけに。ごめんなさい。

(陛下……ご心痛、心よりお察し申し上げます……!)

 私にできるのはクッションを元通り以上にする事だけ。

 綺麗に洗濯をして、綿は新しい物に変えましょう。クッションの身に余る感情をぶつけられてしまったのだもの、そのくらいはしてあげなければね。

 今度こそ、お任せあれ、陛下!


 ――尚、この掃除婦の懸念は悉くが的外れなのだが、一部使用人(女性)の間では陛下の道ならぬ恋(オペラ伯爵への想い)正統派の愛(ナタリアへの想い)の方向性の違いで静かな争いが起きているとか何とか……。

 頑張れ国王陛下。頑張れクッション。明日も受け止めきれない現実を受け止める為に!

余談は以上です。

次回更新予定は明日8月16日、第三章が始まります。

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[一言] 禁断の愛!(@ ̄□ ̄@;)!!
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