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【完結】王様の嫁は御庭番  作者: 真波潜
第一章 ガルフの剣
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第一章 十六幕 告白

やっとタイトルの回収ができたのでそれっぽいお話が書けます。

「シャイア様に、ご報告とご相談をしなければならない事があります」

ナタリアは改まってそう告げると、未だ逡巡の最中に居るのか視線を右上、左下、と様々に動かす。彼女がこうなるのは珍しい。いつもまっすぐに目を見て話していたのだと、こうなってみて初めて気づく。

「実は……私、こうして自分で判断するというのは、してこなかったもので……まだ、少し迷っているのですが、聞いてくださいますか?」

 いつの間にかサロンの中は人払いがされている。本当の二人きりになるのは今までに無かった事だ。

 シャイアはナタリアの告白が本当の物だと解るので、うん、とゆっくりと頷いた。

「一部分だけ話すのは、やはり話がややこしい事になってしまうので、全部お話しようと思うのですが……、ですので、すべてシャイア様のお心のうちに留めてくださるとお約束願えますか」

「うん、いいよ」

 即答したシャイアだが、嘘は無い。秘密にしてほしいというのなら、知っているという事さえ秘密にする程度の芸当はしてみせよう。

 シャイアの答えに奇も衒いも無いと解ると、ナタリアはほっと息を吐いた。

「では……」

 ナタリアが居住まいを正したので、シャイアも背筋を伸ばす。

 結婚してからずっと、シャイアにとっては『味方』である事しか分からなかった彼女が、何を報告してくれるというのだろうか。

「私、実は御庭番ですの」

「うん。……うん??」

「御庭番です。草の者とか、影とか、あからさまな物ですと諜報とか暗殺とかする、アレです。アレなんですけど……」

「うん、いや、うん?? 少しだけ待ってくれるかな?」

 特大の物が来た。

 シャイアが頭を真っ白にするなどというのは、もう何年も無い事である。

 あまりに普通にナタリアは言ってのけたが、その一言が持つ情報量の多さにパンクしたという方が正しい。なまじシャイアに知識があったことが、逆に理解の不能に作用している。

 一先ず溢れかえる脳内知識をいったん抑え込み、御庭番という言葉にだけ集中する。深呼吸をして意識をナタリアへと取り戻すと、シャイアはうん、ともう一度頷いた。

「よし、大丈夫。もう大丈夫だ驚かないぞ」

「はい。しかし、元御庭番というか……ソロニア帝国のオペラといえば、国王付きの御庭番の事なんです」

「その告白本当にしちゃってもよかったやつかなーー?!」

 思わず背にあったクッションを抱えて顔を埋めそこに小声で叫ぶという芸当を成したシャイアである。

「それを知っているのは当然、ソロニア国王と宰相殿のみ。あとは私の父上と、オペラ伯爵の『館の者』だけなのですが」

「それ国家機密ってやつでしょーー?!」

 クッション芸再び。

「ですので、御内密に願います。……こちらに来て、あなたと目を合わせた時にしまった、と思ったのですが……」

「えぇと、な、なにが……?」

 顔を合わせたのは結婚式が一番最初であった。シャイアはたしか、目いっぱい笑って安心させようとしか思っていなかったのだが、彼女に警戒させるに足る何かがあったというのだろうか。

「あなたが()()()の持ち主であったので。話そうかどうしようかと、最初に此方の部屋でお茶をした夜には随分悩みました。あの時はこのお話をする事は国を裏切るに等しい考えだと随分とくよくよ悩んだものです……お話するには当時の私にはまだ荷が勝ちすぎる事でしたので……。今の私は、貴方を死なせたくないと心より思っておりますので、お話する決心がつきました」

「すっごく嬉しい事を聞いているし、できれば先を聞きたい所なんだけど……私が何の持ち主だって?」

 聞きなれない言葉に真剣な面持ちになると、シャイアはナタリアに尋ねた。いつでもクッション芸ができるよう、ヴィクトリアン柄のクッションは膝の上だ。

 今は全く知らない国の本を目の前で開かれて、読めない言語なのに読んでみろと言われているも同然の気分である。できればこの話は一度に済ませた方がいいだろうと判断して、分からない事は素直に尋ねる事にした。

「千里眼です。――お心当たりはございませんか? 人の心や考えが見ているだけで『分かってしまう』……神からの贈り物と言われる程珍しい能力でございます」

「あぁ……、これ、千里眼っていうのか。よく見えている、とはロダスに言われた事があるけれど」

 神の贈り物であったとしても、へぇこれが、という程度で納得してしまうシャイアに、ナタリアは真剣に、そうなんです、と頷いた。

「オペラ伯爵以外では初めてお会いしましたが、目が一緒ですので、すぐに分かりました」

「はいこれまた機密事項じゃないかなーー?!」

 クッションが千里眼もかくやの大活躍である。と、柔らかい綿を覆う滑らかな布地に顔を埋めながら、はたとシャイアは思い当たる。

「あれ? でも、私はナタリアの秘密に今の今迄気付いてもいなかったよ?」

「それは、私がオペラ伯爵の紛れもない実子であり、幼少の頃より訓練を受けたからでしょう」

「訓練」

「御庭番としての技の訓練の他に、この、表情を消す訓練をずっと行って参りました。千里眼とは、要するに想像を絶する観察眼なのです。観察する相手が物言わぬ人形であれば、そもそも読む心がございません。ですので、シャイア様が私の秘密に至らなくても当然の事なのです」

 なるほど、とシャイアは考え込む。確かに、ナタリアの『表情が読める』のは、いつも会話がある時だけだ。ナタリアは会話を避けないから忘れていたけれど、先のように気配を消されてしまえば、そこに置いてある人形のように見えるのかもしれない。

「それで、元御庭番です、というのは分かったのだけれど……君はどうしたいのかな?」

「はい、そこでご報告はこれとして、ご相談なのですが」

「うん」

「一緒に来ましたカレンとニシナ、今は馬屋番に甘んじているソルテスも御庭番です」

「うん。……うん??」

 報告は終わったのでは?

「先日の戦はカレンが同行いたしました。お役に立ったようで何よりでございました」

「うんーー?!」

 クッションはもうしわくちゃである。

「もしや……この話は、オペラ伯爵家が御庭番となった歴史からお話した方がよろしいでしょうか……?」

 もしかしなくても情報量だけが多すぎて整理しきれないのでお願いします、とはシャイアが大声で叫びたかった事である。新情報が多すぎて全く理解が追い付かないのだ。糸口が欲しい。

「では、オペラ伯爵家の古い逸話からなります歴史をお話しましょう」


 時はウルド山脈が未だヴァベラニア王国の国土であり、ソロニア帝国が成って百年程……今よりは五百年程前に遡ります。狭い国土であっても、優秀な航海士や造船技術者、漁師が母体となって、ヴァベラニア王国よりソロニア帝国が友好的に独立いたしましたのは、シャイア様もご存じの事かと思います。

 ソロニア帝国は百年の時を掛けて、貿易を盛んに行いました。そのおかげで文化芸術の進みが早く、どの街にも劇場が建っておりました。それは今も続いております。

 最初は異国の話を面白おかしく見せてみたり、吟遊詩人が街角で歌う程度の事からはじまりました。そして、劇場と演技者という形を得た事で、文化としての一座を勝ち取ったのです。

 その劇場の一つに、オペラ座、というものが御座いました。物語として御聞き覚えがある冒頭かもしれませんが、あれは脚色された物語(フィクション)。ソロニア帝国のオペラ座の歴史は違っております。

 オペラ座は素晴らしい歌手と、楽士によって、国一番と謳われる劇場でございました。しかし、その演技力や魅力を活かし、オペラ座は貴族を相手にある商いを始めたのです。……情報戦や暗殺といった。

 それは醜い争いだったと記録には残っております。その当時の王には王子が三人、姫が五人おりましたが、全て暗殺されたとも。ですので、急遽愛人の子を玉座に据え、徹底的な警護を行ったそうです。

 それは歴史の一角ですが、オペラ座の評判は表も裏もすぐに王の耳に届きました。当然ですね、当時は未だ新興国と言って良い国。身内から国が滅ぼされてしまってはたまったものではございません。それに、即位して尚命の危険が常に付きまとうというのは、傍系の出であるソロニア国王には身に余る問題でした。それを素直に認められるという才能が、今後のソロニア帝国を救う事となりました。

 当時の王は、母体となったヴァベラニア国王に相談をしました。幸運にも、当時のヴァベラニア国王は優れた千里眼の持ち主だったのです。聞いた情報からでも全てを見通す……、遠くの物事を我が事のように把握するお力をお持ちでした。

 そうしてヴァベラニア国王はソロニア国王に告げるのです。――ならばオペラ座をわが身にしてしまえばよい、と。

 ソロニア国王は、オペラ座をどう『潰す』べきかを考えておりましたが、オペラ座を『取り込む』という発想は無かったのです。感謝しながらソロニア国王はヴァベラニア王国を後にし、奔走しました。

 まずはオペラ座と二重三重に囮を立てて接触しました。あえて尻尾を掴ませる事で、まんまとオペラ座の『劇団員』を王は寝室に呼び込む事に成功したのです。

 王はオペラ座の劇団員に、地位と永遠の報酬、そして技を振るう場を与えるので、どうかソロニア帝国の身内になって欲しい、と嘆願しました。ある意味、結婚を申し込む(プロポーズ)と言えるでしょう。

 オペラ座は暫く時間を貰いました。

 オペラ座の最初の目的はお金でした。次に、劇場に納まらないだけの実力を振るう場。最後に、オペラ座はある神を信奉していました。

 芸術と死の神。グラシャラボラスです。ご存知でしょうか?

 一説によれば、オペラ座はグラシャラボラスの現界によって成り立ったとされております。当時はグラシャラボラスの信仰は忌避されておりましたので、その偶像崇拝を認める事。オペラ座の中だけでも。そういう内容で、オペラ座の座長……初代のオペラ伯爵は王と契を結びました。

 芸術の発展により、優れた劇団として王に認められ爵位を得たオペラ伯爵……というのが表向きの歴史ですが、此方は完全に真実の裏事情です。

 しかしてオペラ座の座長はオペラ伯爵となり、辺境に領地を得、劇団員と共に『オペラの館』に引きこもりました。

 オペラ伯爵は領地をよく治めながら、その後も身寄りのない才のある子ども……もちろん、御庭番の行者としてです……を引き取っては育てました。

 そしてその時の国王が、二代目のオペラ伯爵の元に娘を嫁がせました。これが私が王家傍流であるという話の元でございます。

 そうして今に至るのが、オペラ伯爵、及び、『館の者』なのです。


「……ご清聴、ありがとうございました」

「はぁ~~……」

 シャイアの目の前はちかちかとしている。知らない異国の本を開かれていただけだったのを、読み聞かせてもらったような気分である。真新しい歴史、真新しい知識、今まで隅に追いやっていた記憶を刺激されて、脳が活性化しているのを感じる。

「じゃあ、さっき言っていたカレンとニシナ、ソルテスは育てられた『館の者』で……」

「はい。私がオペラ座の血を継ぐ者です。――今更ですが、御庭番というのは役職名です。技を振るう個人を指す時は、楽士、または行者(ぎょうじゃ)と呼びます」

「なるほどなるほど、繋がって来たぞ」

「シャイア様はご理解が早くて助かります」

「グラシャラボラス信仰は今も?」

「私は正直、あまり興味がありませんでした。カレンとソルテスは熱心な信者でございます。ニシナは……女としての側面が強いので、行者をするのはどこか義務感からのようです。育てられた恩義というか」

「なるほどねぇ……分かってきた、相談の内容も何となく」

「はい。……もしお許しいただけるのでしたら、カレンとソルテスに、そして必要とあれば私に、ヴァベラニア王国の御庭番をお申し付けいただけないでしょうか?」

「うん、いいよ」

 シャイアはあっけらかんと言い放った。無表情で固まるナタリアに、にっこりと笑いかける。そう、それは結婚式のあの日、彼女を安心させるようにと思って笑った顔と相違なく。

「むしろとても助かる。今、この国はとてもきな臭い。叩けば埃が出る所ばっかりだ。……平和だったのは嬉しい事なんだけれど、どうもね、私が放つ斥候や草の者では対処しきれていないのが現状だ」

 ナタリアがここまで正直に話してくれたのだからと、シャイアも真剣な面持ちで正直な話をする。

 結婚してから、何度も彼女と意見を交わす事はあった。しかし、腹を割って話すというのは初めての事かもしれない。

「ナタリアの話を聞く限り、君の話は私には都合がよすぎる位良い。優秀な者が技を振るう場ならこの国にもまだまだある。……カレンやソルテスは今の身分のままでいいのかい? 偶像崇拝は好きにしてくれてかまわないよ、今はいろんな神が崇拝されている時代だからね。グラシャラボラスだって、奉っている墓場や施設だってある。私は可能な限り彼らの厚遇を厭わないし、制限しない。いや、暗殺三昧は困るけど、つまり……」

 シャイアはうぅんと考えて天井を向き、思いつくと床に跪いてナタリアの手を取った。

「私と私の国と、結婚して欲しい」

 求婚する側が部屋着姿な事を覗けば、絵の様な美しい一面であった。

 ナタリアは初めてされる婚姻の求めに、自分の胸が高鳴るのを感じる。

(あぁ、これが……)

 自然にナタリアの口角が上がる。白磁の頬が、みるみる薔薇色に染まってゆく。

「はい、もちろんですわ」

(これが、嬉しい、という事ですのね――)

 ナタリアの破顔に、シャイアは瞠目するも、すぐに顔をくしゃくしゃにして喜んだ。立ち上がってナタリアの額に口付ける。……これが初めての口付けである。大層気を使っていたのだ。

「これからどうぞよろしく、奥さん」

 喜色満面にそう告げた。

 ここに、シャイア・ガルバンド・ロウ・ヴァビロンとナタリア・ソロム・オペラは真実の婚姻を交わした。

次回更新は8月7日6時です。

第一章は完、明日は余談が挟まります。

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