鎖す世界
少し前に台風が発生して、この島に来て初めて直撃する見通しだ
茂じぃは慣れた感じで外の物を家の中に入れたり括ったりしている
俺も手伝いながら少し、あこの相手もする
あこも自分では手伝ってるつもりだが正直邪魔になる
少しイラつく俺
そんな事関係ないとばかりに
あこは、笑いながら嬉しそうに
「にぃ~にぃ~これ!」「にぃ~あい!」「にぃ~ぅぃ!」側で言う
少々鬱陶しくなり
「あこ!邪魔!」と言うと
あこ俺の顔みながら悲しい顔したが
めげない
また笑い「にぃ~にぃ~」と甘える
無視すると、あこは俺が取ろうとしたロープを渡した
「あっ、ありがとう」
典明さんが言ってたみたいに
あこは、言葉は上手く喋れないが理解は出来てる
上手く喋れない分、人の様子を良く理解している事にハッとした
ありがとうと言った言葉で、あこは嬉しそうにして笑い
「にぃ~にぃ~」と言いながら俺の手を掴んだ
一仕事終わり昼ごはんの準備を茂じぃと一緒にする
あこも、不自由な手でテーブルを拭いたり茂じぃから渡される自分用の食器を
落とさないように慎重に運ぶ
テーブルに大量のソーメンが運ばれ各自取り食べるスタイルだ
茂じぃは、普通に食べ始める
俺も普通に食べる
あこは、自分用のフォークとスプーンと子供用のお箸を見て
フォークを選び苦戦しながらソーメンを取ろうとするが、なかなか上手く行かない
茂じぃがフォークを持って来て
「あこ、こんな風にしてみ」とゆっくり手解きする
見ながら真似し何度かしてるうちに上手くソーメンを丸めて自分の器に入れる
「おぅ!なかなか上手いの!」
あこも嬉しそうだ
「ぉぃ~ぅ~」
「おいしい、のぅ~」ゆっくり言う
「ぉぃぅぃ~」あこが真似る
俺の方を見るあこ、笑う俺
「あこは、おまえと同じ食べ方するな」
「え?」
「すすった後、さとぼーは上むきおる」と笑う
あこを見ると俺の真似していた
ここだと時間に追われる事もないから自分のペースで時が動く
なので、あこは、落ち着いて、ゆっくり食べる事も着替える事も出来るし
最後まで自分で出来る事に子共ながら満足感と達成感を感じて嬉しそうだ
あこが、やっと食べ終え自分で台所に食器を持って行く
一度に運べないから何回も、行ったり来たりしながら
でもその度に、じぃに褒められ嬉しそうだ
寝転んでる俺の側に、あこが来て俺の脇の方に頭をくっつけて同じ様に寝る
「さとぼー、もう少ししたら暴風雨圏に入りそうやから畑少し行ってくるけん」
「危ないから早く戻って下さいよ」
「わかっとる、おまえより経験豊富じゃ」と笑う
あこは俺の手を寝転びながら動かして遊ぶ
俺は眠いので、されるがままの状態で、うとうとしてると
あこも動かさなくなり二人は寝息をたてだす
どのくらい時間が経ったのだろうか風の音で目が覚める
あこは、まだ寝息を立てながら熟睡していた
外の様子を見に出る
風が強くなり雨も降りだしていた
茂じぃがまだ帰ってないのが気になり畑に行くと
丁度作業が終わり戻りかけていた
「おぅ さとぼー、あこは?」
「寝てます」
不安顔で
「はよ戻ろ」といい小走りしだす
荷物を俺が持とうとすると先に行けと言う
家に戻り
「あこ」「あこ?」
と言うが気配がない
探すがいない
じぃが戻り
「あこは?」
「あこが、おらん」
じぃの顔色が一変する
「目が覚めて誰もいんから外に行ったかも」
家の周辺もいない
茂じぃが
「探してくるけん、おまえは、ここにいてくれ、あこが戻ってくるかもしれんけん」
動揺してる俺をみて
「みつかるけん」と言った
益々酷くなる雨風の中、消えていく茂じぃだった
1人残った家に嵐の音が凄まじく感じてくる
あこの事が脳裏に浮かぶ
1人置いて行った事を後悔してると
俺の脳裏に浮かぶ鎖していた記憶
フラッシュバックの様に見える光景
暗い部屋には数人の大人が横たわり
俺の前に小さな少年が苦しみながら涙を流し俺の方に手を伸ばす
その光景を見ながら俺の両手は強く強く締め付けていた
俺の頭が割れそうになりパニックになりかけた時
「みんな大丈夫か?」と、あの男が来た