導き 2
いよいよこの島にも本格的な台風の季節が近づいてきていた
ここに来るまでは空を見上げて雲の流れなど気にする事も無ければ
朝日や夕日に夜の空など気にしたことすらない
ここに来た時
毎日同じ空 海 太陽 星に人 飽きて息苦しくないのかと
でも今は違う感覚だ
今日の景色は今だけで明日には、また違う光景になる
同じと思っていた空は日々の風や気候で色や雲の形が全く違う
海も日々微妙に色のグラデーションで変わって行く
星は、こんなに近くに沢山あるのだと言う事や
こんなに光ってるのだと言う事が発見だった
台風前の季節の空は穏やかで、より一層青さがましとても綺麗だ
そんな事を考えながら釣り道具を抱え海岸線を歩く
週に一度の内地から船が島に着いていた
おばんの店へ、なんの用もないが声掛ける
恒例の様に良く冷えた、けんぴん茶もらい安否確認終了し
茂じぃの家に戻る
家の方から聞きなれない女の人の声がしてくる
近づくにつれて声が益々大きくなり怒鳴り声に近かった
何を言ってるのは理解出来ないが
「じぃが、何もかも、めちゃくちゃにしたんやろ!
じいが、お母ちゃんをあんな風にして!
みんなバラバラにして!だから私も、こんな仕打ち受けて!」
かなり殺気だった興奮した女の声は涙声みたいだった
「だからこの子も、こんな風になってしまった!
みんな、じぃのせいや!このままでは野垂れ死にするわあ!
援助してくれんなら、この子引き取って!」
何も言わない茂じぃ
「全てじぃのせいやから!」と怒鳴って
俺と同年代位の女が飛び出してきて
一瞬目が合うが走り去った
恐る恐る家に入る
暴言吐かれていたのが嘘のように穏やかな表情の
茂じぃが膝をついて
涙ぐんでる幼い少女を抱きしめていた
「おぅ、聡お帰り」
「........」
「ほれ、優しい兄ちゃんやで」と少女を俺の方に向かす
「さとぼん、可愛い子やろ、新しい孫じゃ」
いや、孫と言うより、ひ孫だろ~と思う
いや、それよりも爺さん大丈夫なのか?
この子も育てられるん?
それよりか何がどうなって、こうなったんだか理解不能だった
だいいち俺の本質を知らないのに優しいとか言ってるけれど
この爺さんは、どこまでお人好しなんだ
爺さんが女の子の側を離れ少しして冷たいものが俺の手に
女の子の手だった
初めて触る感触
小さな手が少し震えてる感じがした
軽く握ってきた
何故か握り返した
「いくつ?」と聞くと
握ってた手を離し
右手で親指だけ残し変な握り拳を作る
「?・・・?いくつ?」もう一度聞く俺
「ぅん~」なのか何なのか意味不明な言葉じゃない言葉が出る
「5歳じゃ」茂じぃが言いながら女の子に綺麗に切られた沖縄のマンゴーを持ってきた
「こんこは上手く喋れん手も不自由じゃけん迷惑かけるかも知れんが宜しく頼むわ」
少し寂しそうに見えた
マンゴーを見た少女は不安の泣き顔が嘘のように
嬉しい感情を体全部で表す
「これこれ、座りなさい、食べる時はの
ちゃんとこうして座るんじゃ
兄ちゃんも、ちゃんと座ってるやろ」
うんうん、と言う感じで「う~う~」言いながら首を縦に振る
フォークを握る手つきは覚束なく
上手く口に運べないから顔を皿に近づけて被ろうとした時
「これこれ、あーこ、ちゃんとフォークで食べんといかん!」
「うーぅう」言いながら少しイラついた感じで必要にマンゴーと格闘するので見かねた俺は助けようとした
「さとぼーほっといてやってくれるか、こんこはこれから先なんでも自分で出来るようにならんと、この子自身が困るんでな、なんでも出来るようになったら障害あっても、それが普通になるけん今の優しさは、こん子の為にならんばい」
そお言いながら茂じぃは少女に
「ほれ、あこ見てみ、こうして持ってみんかい」
何度か見せてるうちに少女あこが上手くフォークに刺し口に入れた
「おー上手い上手い!」茂じぃが言う
あこちゃんも大喜びしながらフォークを持ったまま手を叩く
「あこ手叩く時はフォーク置かんとな」
素直にちゃんと置き今度は手を広げて叩くが、ずれる手で音はしない
また食べたら喜び手を叩く何度もするので茂じぃも感動しなくなると俺の方見て何か訴える少女
また食べたら「うーぅう」言いながら満面の笑みで俺を見る
誉めて欲しいのだと感じ
「あこちゃん上手くなったね凄いね」といちよ誉めておいた
満足げに笑う少女
少し落ち着いた少女
茂じぃの側からなるべく離れない様にしている
お風呂も一緒に入り今迄になかった笑い声が聞こえた
どこにあったのか可愛い甚平を着せられて
ご機嫌な様子で俺の所に来るが子供は苦手なので、どうしていいか解らないから
軽く笑っておいた
「さあもう寝るぞ」と茂じぃが少女を連れて行く
しばらくして部屋から少女の泣き声がしだす
茂じぃも少し困ってる様子
気になり薄暗い部屋を開け
「茂さん大丈夫ですか?」と声掛けると少女が側に来て俺の手を握り
「ぱーぱっ」と言う
「・・・?」
「ぉおぅ~パパか~パパがええんか?」茂じぃが言う
首を縦に動かす少女
「聡一緒に寝てやぁ~」と言う
俺が?いつから、この子のパパやねん!と思うが
世話になってるし~と考え
「俺で大丈夫ですか?」
「ほれ、この子の顔見てみ、落ち着いとる」
仕方なく少し明るい俺の部屋に一緒に連れて行き
俺の布団に入らせた
横に来いと手で布団を叩く少女
嫌々そこに行くと
少女が布団を少し捲りまた叩く
仕方なく寝る
少女が横に、くっついてくる
少しして指を握られる
固まる俺
寝息がしてきたので手を離そうとした
離そうとしたが何故か人差し指が抜けなかった
こうして奇妙な3人の生活が.....