出会い3
この島は梅雨に入った
大阪の梅雨とは違い、ジトジトした雨でなく
あの嫌な湿度もないから俺には梅雨のような感覚がない
一日にいろんな天気が訪れる
今晴れてると思ったらスコールになり晴れてはまた曇り、また雨が降る
空を見上げれば雲の流れや切れ間が解り、どの道を抜けて行けば雨を避けれるかも分かるようにもなる
月に一度あのスーパーに食材や生活用品など買いに行く日
茂じぃは家の傍にある畑に台風の来る前の準備をしていた
仕方なく俺が一人で婆さんのいる店に行く
「すみません、茂さんの荷物取りに来ました」
「あら~今日は一人かい?」
「はい」
「荷物出すから、これ飲んどきな」と冷たい、けんぴん茶をくれた
椅子に座って待ってると
ずるずると引っ張ってくる音
仕方なく音の方へ行き手助けをした
「ありがとうね、助かるわ、もうこん島は慣れたかい?」
俺は苦笑だけした
「おばさんは、ずーっとここに住んでる?」
「この島には産まれた時からおるもんは殆どおらんわぁ、おばんも茂さんも
いろんな場所からここに流れ着いた
あんたは何処から来たね?」
「大阪です」
「あれ~また遠いとこから来たんだね」
「茂さんは、なんで俺を住ませてくれてるんですか?」
「それは、おばんに聞かれてもぅ~
でも茂さんこの前言いよったけど自殺しに来たんかと思ってたみたいだわぁ。
それに茂さん、あんた位の息子おったんやけど亡くしてしもうたみたいやし
ほっとけんのと違うかいねぇ」
「そうなんですか」
「茂さんも一人やったから若い息子出来たみたいで嬉しそうにしとったわぁ」
俺の方を見ながら笑った
少しだけ茂さんの事を知った
いろんな事が脳裏に浮かび甦る記憶
甦る記憶で頭が狂いそうになり発狂しそうになる感情を抑えれば抑えるほど
気が狂いそうになる
気が付くと島の岸壁に立っていた
ここに辿り着いた目的を見失いかけていた記憶が蘇り
このまま老人のいる場所に帰る意味がないし
こんな島でも、いつかは俺の過去を知るだろうし
そんな時、俺はあの老人を、どうにかしてしまいそうに思えて来た
風の音と波の音が高くなり
段々雨が強くなりはじめた
ここから飛び込めば確実に死ねるだろうか?
死ぬ時は苦しくないだろうか?
一気に記憶が無くなり海に飲み込まれてくれるだろうか?
いろんな事が絡まり
気持ちと裏腹に一歩が踏み出せないなか
益々強風と雨風で段々立つている事すら儘ならなくなる
「おまえ!なにしてる!死ぬぞ!」と何処からか聞こえる男の声
振り返るが、もうあたりは暗く雨風で視野が悪く解らない
人間本当に死に直面しかけると身動き取れないどころか
恐怖で声も出ないし硬直した体が震えるだけだ
そんな時、俺の腕を強く掴む男がいた
「こっちに来い!」