出会い 2
気が付けば何もなかったように自然と老人と生活していた
相変わらず俺の事を何一つ聞いてこないのは俺にとっては居心地もよかった
もちろん行く場所すらあるわけでもなく
ここにいれば食事に寝る場所もあるわけだし
こんな島には人も保々いない
内地からの情報なども殆ど入ってこない事も幸いだった
「おい!今日は海がええけん魚捕りにいくぞ!早よ支度しろ」
「は、はい」
俺をここに運んできたリアカーに今度は老人を乗せて引っ張る
舗装されていない道を進み茂みを抜けると綺麗な真っ青な海が見えて来る
そこまで行くと老人はリアカーから降り釣り竿とバケツを俺に渡す
そこから少し歩いて絶好の釣りポイントらしい所に連れて行かれた
「釣りはするか?」と老人が準備しながら言う
「子供の頃にしたぐらいです」
「ここは透明度が良すぎるから絶対に自分の姿魚にみられんようにな、こんな風に
ここから吊るせ」と手本を見せる
見よう見まねで釣り竿を投げると
「おぅ、なかなかうまいの、そのまま後は忍耐じゃ~
だが釣りはのう温厚で気長な奴には向かん
短期でせっかちで気が短い方が待っとる時も、いろいろ考えるじゃろ
ただぼーっと待っとるのと、あれこれ考えて待っとるのとは訳が違うんじゃ」
「おじさんは?」
「俺は釣りの名人じゃから気が短い、と言うより短かったな
この島で一人で生活しよると魚が釣れようが釣れんでも、どうでもよか
ただこうして日々変わる綺麗な海さぁ見て鳥の声に波風の音聞くだけで満足じゃ」
いつもの穏やかな表情で言う
「おめえは名前あるんか?」
あるだろ~と腹で思う
「なんて名じゃ?」
「聡です」
「サトぼんか!」
「ぼんは、いらないです」
「そっか、ぼんなしかぁ~」と少し可愛い顔で笑う老人
「俺は、おじさんをなんと呼んだらいいんですか?」
「好きに呼ぶとええわ」
「名前ないんですか?」
「あるわ!茂じゃ」
「じゃ、シゲじぃですね」
「じぃは、いらんやろ!」少し拗ねる
「じゃ、しげで」
「そこは、さんとか普通つけんか?」
互いに照れ笑った
魚は老人が釣った2匹
俺は食べれるんかどうか解らんようなのが1匹
「おぅ、今日はボチボチじゃったがデカいのかかったな、これは煮つけにしたら旨いぞ!」と
頭を持ち嬉しそうに見せる
その魚は普通のスーパでは見た事もないもので
水族館とかで見た事あるような色鮮やかなブルーグリーンのような魚だった
「こっちはイラブチャーと言ってな刺身で食えるで」と嬉しそうに言う
「帰りにスーパーさ行くぞ」
こんな島にスーパーあるのか?
いや人おったのか?と改めて驚いた
小さい島
歩いて保々一周出来るらしく車も走っていない道をゆっくり歩く
梅雨前の島は風も心地よく日差しは強いが気持ちのいい暑さだった
しばらくして
「おう、ここここだ島スーパーな!」
「!?」
赤茶けた古びたコンクリートの怪しげな平屋
普通に中に入る老人の後について入る
「おばん、おるか?」
「あい、しげさん がんじゅーねー?」
「久し振りやな、相変わらづの元気じゃ」
「あら?この男前のにーさんは?息子かい?」
「こんな若い息子おらんやろ、孫みたいなもんや」
軽く会釈するだけの俺
「サトぼん欲しいもん持ってこい」
ボン付けて呼ばれ少し不貞腐れながら
殆ど何もないような棚から久し振りに見たポテトチップスだけ持って行く
「若いもんは、こんなんが好きやな~」と老人が言う
「おばん、いつもの出してや」と言うと
奥から段ボール箱に詰め込まれたものを引っ張ってきた
「おいサトぼーそれリアカーに積んでくれ」
今度はボーだけかと思いながら不愛想に運ぶ
そのまま待ってると両手にティッシュを抱えて戻ってきた
リアカーを押しながら
「その箱なんですか?」
「シャンプーやろ、歯磨き粉に
洗剤やろ米、缶詰めに保存食やな」
少したわいのない会話して家に着いた
「腹すいたやろ、直ぐ飯にしよ今日はご馳走じゃ」
手際よく魚を捌き煮付けしながら刺身用も捌いていく
テーブルに茂じぃの湯呑みと、いつものお酒を用意し箸を置くと
「丁度煮付けが出来たから、そっちに置いてくれ」と大きな皿ごと渡された
その魚の姿は、あのカラフルな色に醤油の色と混ざり合い異様な色に染まってしまい食欲が失せる
「ほれ旨そうやろ!食え食え」
言われるまま恐る恐る箸を付ける
「....?うまい」
「そやろー初めは見た目でビックリするが食べたら旨い!
なんでも見た目で判断したら後悔するばい」と嬉しそうに笑う
「ほれ刺身も食え」
「旨いです」
「そらそうじゃ釣りたてやからな」
嬉しそうに酒を飲みながら
「さとぼーは、ちゃんとしとるな」と真面目な顔して言う
「食べ方見たら分かるけんな、この魚と同じじゃ見た目と違って意外とちゃんとしとる」
老人から見た自分の今の姿はどんな風に映っているのだろうか?
何故得体のしれない、こんな俺に優しくしてくれるのか
怖くはないのだろうか?
そして何故この島で一人で住んでいるのか少し気になっていた