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  作者: りょう
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出会い

微かに聞こえる風と鳥のさえづりに何処からか近づいてくる波の音と同じ感覚で

体に当たる冷たいものが心地よい

遠くに聞こえてた音たちが近づくと同時に瞼に飛び込む白いもの

目を開けると眩しすぎる光だった


何処をどう彷徨って行きてきたのだろう

なんの為に俺は生まれたきたのだろう

なぜ自ら命を捨てる事さえ出来ないのだろう

何故こんなにも孤独で未来が無く行きる意味が見いだせないのに死ぬことすら出来ない


そんな俺が辿り着いた場所の風景は今迄見たことのない

透き通る程の穏やかな青い空と見たこともないキラキラ光り輝くどこまでも広がる

エメラルドブルーした光に輝く鏡のような海だった


大阪から逃げるように沖縄に行き、そこから離島に渡る為の船に乗り込み

酒の力で海に飛び込んでみたものの、このありさまだ

もう笑う感情も体のあちらこちらに出来てる傷の痛みの感覚さえない

とりあえず全身に付いた真っ白い砂を払い今の状況を確かめるように

周りを見渡すが目に映るものは海、空、太陽に半分以上森状態の木だけだった


何処をどう歩けばいいのか何を求めて歩くのかさえ今の俺には全く解らないし

もうどうでもいい事なのだが、どうしょうもなく襲って来る人間の性の喉の渇きと空腹感を

取り合えず解消したく歩き出すが歩けども人ひとりいる気配すらない島だ

もうどのぐらい歩いた事か・・・

益々喉の渇きが半端なく襲い空腹と同時に疲れからか

また段々と遠のく風と木々の音


微かに香る穏やかな温かい香りに微かに聞こえる音

自然と目が覚め今迄見てきた景色と違う光景が目に映る

赤黒の低い天井に殺風景な壁

今自分がどういう状況なのか理解出来ないまま起きてみると

体のあちらこちらに傷の手当をしてくれている痕跡があるのと

いかにも古臭いステテコのようなものにヨレヨレのシャツを身にまとってる事に気付く

そのまま音のする方に行くと

少し小柄で背中の少し丸身を帯びた髪の薄い白髪に黒髪が混じった70代半ばの男が台所のような所にいた

「おぅ、起きたか」低音の少し掠れた穏やかな声で言う

「ここは?」とぼそぼそした声で言う俺

「おまえ道端で倒れてたんだぞ死んでるのかと思ってびっくりしたけど息しとったからリアカーに乗せてきたわ」と少し笑みを浮かべながら

「真夏だったらまじ死んどるぞ」と言った

まあ、そのまま死んでも良かったんだけれどと心の中で呟いた

「お腹空いてるんやろ?めし作ったからくってけ」

「あの~喉が~」とまたぼそっと言うと

「あっ!あ~飲みもんも飲んどらんか、ほれほれ」と言って大きなジョッキに入った水を差しだした

ゴクゴクと一気に飲み干す

「あはは飲みっぷりええのぅ」と今度は少し大きく笑う老人

「ほれ飯飯!これそこのテーブルに置いてくれや」と鍋ごと渡す老人

「あっ、はぃ」

「男飯や、ここはなんもない島だから、こんなもんしかないけど自然の恵みじゃー食え食え!」

と鍋からよそって渡す

一目散で食べる俺をみて

「ほんまに腹空かせてたんやな食べっぷりもええ!こんなもんでも腹減ってたらうまいだろ!」

空腹過ぎて口に入れたまま頷くだけの俺

「もっとゆっくり噛まんと喉つめるぞ」と言われると同時にむせ返る

笑う老人

こんなに食べ物が美味しいと思ったのはいつ以来だと思いながら

胃袋が温かく満たされて行く感じで生きている感覚が少し甦る


俺の事を何も聞かない老人

何もなかったように普通の日常の事のように接する

老人が後片付けをしながら俺に布巾を掘り投げて

「そこ拭いたらシャワー浴びれ、こん島は浴槽ないけんな」と言いながら

いつの間にか用意してくれてた着替えを指先

「それ使ったらええわ」

いかにも老人の着替え一式だが今着てるのより遥かに綺麗だ

「あ、ありがとうございます」小声で言う

シャワーの水圧は低いが傷だらけの体には丁度良かった

着替えて老人のいる居間に行くと

湯呑にお酒を入れながら新聞を読んでいた

「おぅ!似合ってる似合ってる俺の一張羅の甚平だぞ」

褒められても嬉しくないが軽く会釈した

「お前も飲むか?」「はぃ」

「湯呑もってこい」と指さす

「ほれ」と言いながら、なみなみとつぐ老人

「ここはテレビもないけん内地から届く物資は1週間に一回だから新聞も一週間前のだ」

「不便ですね」

「都会から来たら不便でも、ここにずーっといたら不便が普通じゃ」穏やかに笑う

「おじさんは、ずーっとここに?」

「ここに来てもう25年かのう~来た時はなんもないのが不便と思うよりも居心地がよくてのう

な~んも考えんでええし島は魚も捕れるし島の作物も少しは採れる電気もきよるしな

まあ、なんも考えんでも生きていく事は出来るしな。空気は旨い!酒も旨い!

海、空、星は癒しやしなぁ」ただ聞く俺

「おめえも少し住んだら解るわい」

たぶん。いや絶対わからん。と心で呟く

「おめえは幾つか?」

「25です」

「若いのぅ~一番ええ時じゃ!でも一番苦しい時じゃな」

老人の言う矛盾した意味がわからん

「今日は疲れたろう、もうゆっくり寝たらええ」

そのまま湯呑を流しに持って行こうとしたら

「そのままでええ、置いとけ」

「すみません」小声で言う

寝室に使わせてもらってる部屋に行きかけて引き返し

ぼそぼそっと呟く俺

「おじさん、今日はありがとうございました。飯うまかったです。」

「おぅ」と照れ臭そうに笑う老人だった












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