8-8=奈落
落ちて落ちて落ちて落ちる。
どのくらい落ちただろう。
数秒?
いや、数分かもしれない。
しばらく落ち続け、最後はなにやら柔らかいものに受け止められて落ちるのは止まった。
「ここは・・・どこだ?」
キョロキョロと辺りを見回す。
しかし、辺りは真っ暗闇。
一筋の光も入らない。
もちろん、何かが見える訳でもない。
「ほんと、つくづく人間って不便な生き物だと思うよ!
ちょっと暗くなっただけで何も見えなくなる!
もう少し、進化ってものを理解した方がいいと思うな!
ま、いいや!
それじゃあ、始めるよ!」
にゃーと猫の鳴き声が聞こえた気がした。
するとどうだろう。
暗闇は一瞬にして晴れ、
一帯を照らし出す。
ここは・・・よく知っている場所だ。
デパートの屋上。
そして、俺を呼んでいるのは昔馴染みのお姉さん。
服装はいつもと同じ。
あの可愛らしい笑顔も同じ。
ここは何度もやり直してるデパートの屋上だ。
ひとしきり遊んだ後なのだろう。
お姉さんは俺に「そろそろ帰ろっか!」と言ってくる。
俺の返事は決まっている。
頭を縦に振るだけだ。
デパートからの帰り道は今回も同じ。
例のコンビニだ。
コンビニに着くと商品の物色を始めるお姉さん。
そして、コンビニに近づいてくる黒いワゴン。
ナンバーも隠されており、中には覆面の男が2人。
全く同じだ。
俺はやれやれとため息をつき、今回はどうしようかと思考する。
強盗2人は安定してナイフを取り出し店員を脅し始める。
全く同じ。
そこにお姉さんが割り込む。
また同じ。
逆上した強盗はお姉さんにナイフを振りかざし襲いかかる。
これも前にあった。
そして、お姉さんを庇うために俺が前に・・・・・・
出れない。
体が動かない。
よく見るとお姉さんや強盗、店員まで動きを止めている。
「さぁ!君はここで飛び出すことを選ぶ?
それとも静観することを選ぶ?」
そこに現れたのは1匹の猫。
そうだ。
俺はあの八雲とか呼ばれた男と猫に連れられて扉を入った。
少し前の記憶が飛んでいた。
これもあの男と猫の力なのだろうか?
「どうするって?決まってるだろ!」
俺は勢いよく飛び出そうとする。
しかし、体が動かない。
「ちょっと待ちなよ!
焦っても仕方ないよ?
僕は君に選択肢を与えてるんだ!
ちゃんと猫の話は聞いて欲しいもんだね!」
「なに?選択肢?」
「そう!選択肢。
このまま飛び出してそのお姉さんの身代わりになれば君にはまた、繰り返しの毎日が待っている!」
「なん・・・だと?」
「そして、もうひとつの選択肢は静観してお姉さんを見捨てること!
そうすれば君は晴れて自由の身!
君には新しい明日が待ってるよ!」
「お前!何言って・・・!!!」
俺が言い終わる前に猫が言葉を遮ってきた。
「本来は君が刺される運命なんだ。
その運命を覆すためには何かを代わりにしなければならない。
それが今回はお姉さんだったってだけ!
大丈夫!
お姉さんは強盗に刺されるだけ!
君には何も非はないし、咄嗟のことで動けなかった君を誰も責めたりしない!
ね?
条件としてはこれほどいいことはないでしょ?
さぁ!選びなよ!
君はなんのためにここに来たんだい?」
黒い体に細い目がニヤリと笑う。
猫の眼がこんなに怪しいものだとこの時初めて知った。
俺は・・・なんのためにここに来た?
しっかり思い出せ!
明日を手に入れるためだろ?
人なんて所詮、自分のことしか考えてないんだ。
それに俺を責められるやつなんて居ない。
それならここで自分勝手になっても問題ないじゃないか!
ちゃんと考えろ!
俺がどうしたいのか?
俺が何をしたいのか!
俺は・・・
「俺は・・・」




