6-9=牢獄
--おぉ!帰ってきよった!--
「なにが“ おぉ! ”だ!人のことを勝手に殺そうとしやがって!」
--我の感情に触れたものはほぼほぼ戻ってくることはない・・・死んだも同然ならば喰うてやる方がよいだろう?そうすれば、肉体も無駄にはならぬし、我も多少なりとも生き延びることが出来るでな!--
とんでもない暴論である。
「それはてめぇの勝手だ!俺は戻ってきた!帰らせてもらうぞ!」
俺は踵を返して声の主から離れようとする。
「まあ待て。お主の帰り道なぞどこにもないぞ?」
確かにそうだ。
来た道を戻ろうにもどうやってきたか分からない。
帰ろうに道も分からない。
その時、少しばかりに冷静さを取り戻した俺は辺りをよく見渡した。
冷たい石畳。
暗い通路。
暗い小部屋。
それを照らす僅かな光。
そして、通路と部屋のあいだには鉄格子が備え付けられていた。
この光景は見たことがある。
現実ではなく、本やアニメの世界でだ・・・。
“ 牢屋 ”
罪人などを閉じ込めておくのに最適な環境。
閉じ込められる当人からしたら最悪な環境。
それが牢屋である。
しかも俺が立っているのは通路側ではなく、
小部屋側。
閉じ込める側ではなく、閉じ込められる側・・・要は最悪な環境に立たされている。
--やっと落ち着いたか?目が慣れてきたか?・・・そう、ここは我を閉じ込める為だけに作られた牢獄よ・・・--
「お前専用?」
--そう、我専用。我の力を抑制し、動きを封じ、閉じ込めておくためだけに作られた牢獄・・・実に忌々しい・・・--
吐き捨てるように言葉を紡ぐ。
今まで視界に入れないようにしていた。
見てしまうとそれこそ戻れないような気がしたから・・・
俺はこいつの悲しみや憎しみ、そして辛さを知ってしまっている。
しかし、見ずにはいられない。
俺は既にこいつの感情を知ってしまっている。
俺は恐る恐る、ゆっくりと顔を上げ、そいつの顔を見上げた。
--我が恐ろしいか・・・?--
目が合い離せない。
綺麗な赤い瞳。
全身を覆う白銀の毛皮。
見るものによっては恐れ、おののく。
しかし、俺は違った。
「・・・キレイだ・・・」
漏れた感想はそれだった。
その言葉を受けてキョトンとする赤い瞳。
--ワハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ--
少しの間のあと、盛大に吹き出した巨体。
鋭い牙のあいだから俺に降り注ぐのは全身を濡らすには足りる分の唾液・・・ヨダレだった。
「・・・汚ぇ・・・」
--恐るならまだしも“ キレイ ”とな?これは傑作!--
ゲラゲラと笑う巨体。
その度に俺にはヨダレが降り注ぐのだった。




