5-9=困惑
なぜ抱きしめたのか。
なぜ抵抗しないのか。
なぜこの女は俺の腕の中にいるのか。
分からない。
仕方ないだろ。
これしか思いつかなかったんだから。
ただ、抵抗しないでくれて本当に良かった。
抵抗されてたらもう止める力は俺に残されてはいない。
先程から女は俺の腕の中でプルプルと小刻みに震えている。
今になって怖くなったのか・・・どうなのか。
表情が見れないから判断できない。
「・・・・・・なにを」
ん?なんか言ったか?
「・・・何をしてるのよ」
精一杯絞り出した言葉なのだろう。
声が震えている。
「やっと正気に戻ったか?何をしている・・・んーー・・・とりあえず抱きしめてる」
「一体どういう状況になったら抱きしめられることになるのか説明してほしいものだわ」
「俺だって、この状況を誰かに説明してほしい」
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---しばしの沈黙。
「ありがとう・・・うっすらだけど覚えてる・・・暴走した私をあんたが助けてくれたのよね?」
「まぁ・・・結果的にはそうなるのか?必死で何が何だか・・・」
「手まで・・・こんなに・・・」
女は俺の手に自分の手を合わせてくる。
もちろん切れていない面を包み込むように。
「この程度で済んだんだ・・・安いもんだろ」
「それでも・・・ありがとう」
女は弱く、しかししっかりと俺を抱きしめ返してきた。
何故だ?
この状況はなんだ?
周りには大勢の人。
そのシルエットは指を指して笑っていたものから、いつの間にか全員が全員こっちを見て微笑み、拍手をしている。
その中心で血塗れになった男と女が抱き合っている。
この状況を説明出来るやつがいるなら誰か教えてくれ。
「教えるもなにも!君はトラウマを克服したんじゃないか!」
ピョンとジャンプして黒猫が自分の存在を強調した。
「たまにいるんだよね、トラウマを克服するヤツ!そういう人はハズレ!徒労もいいところだよ!今回のイレギュラーは彼女じゃなくて君だったのかもねアルビノ君!」
「随分ないい様だな・・・」
「もう君たちに用はないから帰ってもらうね!」
咄嗟のことで反応出来なかった。
いや、女を抱きしめているのだ・・・どちらにしろ反応は出来なかっただろう。
俺たちは突如として出現した大穴に飲み込まれ暗い闇へと落ちていった。
「バイバイ!次来る時は取っておきのトラウマをご馳走してよね!」
猫が何か言った気がしたが俺達にはもう聞こえない。
落ちながらも俺は必死に女を抱きしめた。




