3-15=一歩
「いい夢は見れたかい?」
幼めな少年の声が聞こえた。
村の皆が去った後、この地に残るのは私だけのはず。
周りを見渡せど人っ子一人いない。
「まったく!失礼だな!君の目の前!もっと視線を下げてくれよ!」
言われた通り、ゆっくりと視線を下に向ける。
すると、そこに居たのは黒くて小さな猫だった。
漆黒の胴体に金色の目をした綺麗な猫だった。
「いい夢は見れたかい?って聞いてるんだけど?」
綺麗な黒に思わず見とれてしまっていた。
「あ・・・あぁ・・・お前がけーちゃん達を連れてきてくれたのかい?」
黒い猫。
その一点がみーちゃんが言ってきた条件と一致していた。
「そうだよ!死にそうな顔をしていたおっちゃんに僕からのプレゼント。」
私は猫を抱きしめ「ありがとう、ありがとう」と何度も礼を言った。
するとどうだろう。
猫がフフっと笑い霧散したのだ。
文字通り霧散
霧のように弾けて消えたのだ。
--はっ!とした瞬間
私は喫茶店に戻ってきていた。
飲みかけのコーヒーに食べかけのチョコレート。
目を閉じていたあいだの夢なのか。
村に戻る前の姿のまま私は椅子に座っていた。
「随分と味わいながらお召し上がりいただいていた様ですが・・・いかがなさいました?」
しばらくの間、固まっていたのだろうか。
青年が心配をして話しかけてきてくれた。
「いや、、なんでもない。少しばかり夢を見ていたようだ・・・」
「夢・・・・・・良い夢でしたか?」
「あぁ、とても良い現実に戻るのが嫌になりそうな夢だった。」
「それはそれは」
「しかし、ここは夢なのだろう。夢の中で夢を見るとは・・・長年生きてきてもまだまだ体験したことの無いことは多いな」
ニヤニヤと笑う青年はそれ以上何も言わない。
「しかし、いつまでもここにいる訳には行かんのだろう?」
「はい。ここは普段、みなさんが見ている夢の影。ずっと留まると帰れなくなります。」
「そうか・・・長い時間邪魔してしまったな。そろそろ帰るとするよ・・・」
そして、ポケットに入っていた小銭を数枚、カウンターに置いた。
「お代は結構でございます」
「そういうわけにはいかん!」
「ここは貴方の夢の中。私共には不必要にございます故」
飲食をさせてもらってお代を払わないのは何か食い逃げのような気もしたが
青年の笑顔が有無を言わせない雰囲気を漂わせていたため、カウンターに置いた小銭を再びポケットの中にお帰りいただいた。
「それじゃあ、ごちそうさま」
私はいそいそと出口に向かい扉に手をかける。
「それにお代なら既に頂いておりますし」
何?
青年が小さく何か呟いたことを確認しようと振り向くと
カウンターには青年と猫。
「にゃ~~」
猫が小さく鳴くと
まだ開いていない扉が勢いよく開き
抗いようのない力で私を吸い込んでいった。




